2017 Fiscal Year Annual Research Report
言語における「音と意味の対応関係」の学習を支える認知科学的な仕組みとその神経基盤
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17J06331
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
板垣 沙知 同志社大学, 生命医科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 音象徴 / 乳幼児 / 言語獲得 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、音象徴が形成される過程や語彙力との関係を検討することで、音象徴が言語の獲得に与える影響を明らかにすることである。音象徴とは、音そのものが特定の印象を有する現象のことである。報告者は、音象徴は語音と意味の関係性を支える心理学的基盤であると考えており、言語の中でも語彙の学習を支える基盤になると考えている。当該年度では、2つの実験を行った。 1つ目の実験では、成人の被験者を対象に日本語の各音素が図形の輪郭(鋭さや丸さ)に対して有する印象を調べた。被験者は視覚刺激である図形の輪郭が鋭いのか、あるいは丸いのかを回答した。音刺激は視覚刺激と同時に呈示され、被験者が視覚刺激の判断に要した時間(反応時間)を評価した。ここで、音刺激と視覚刺激から想起される印象が一致している場合は一致していない場合よりも反応時間が短くなると仮定し、その場合は音象徴が生じていると定義した。これらの結果から日本語の各音素が図形の輪郭に対して有する印象がわかる。そして、それらの結びつきから、それぞれの音象徴が生じやすい擬似単語や生じにくい擬似単語を作成することが可能となる。音象徴と新たな語彙の結びつきの学習を評価する実験を行う上で、音象徴と学習効果を評価するためには擬似単語の設定が極めて重要な役割を果たす。 2つ目の実験では、乳幼児を対象に図形の輪郭や大きさに関する音象徴が生じるかを調べた。視線計測機器によって計測された被験者の各視覚刺激に対する視線の動きや停留時間を評価した。視覚刺激の提示と同時に音刺激が呈示され、音刺激には純音および日本語の音素を用いた。これらの結果から乳幼児を対象にした実験における刺激の最適な呈示方法や課題の難易度の設定方法がわかる。音象徴と言語獲得過程の関係を調べる上で、乳幼児を対象にした実験は欠かすことができず、本実験の果たす役割は極めて重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度では、2つの実験に取り組んだ。1つ目の実験より情報量の少ない日本語の音素でも図形の輪郭や大きさに関して特定の印象に結び付くものがあることが確認された。これは、音象徴と新たな語彙の結びつきの学習実験を実施する上で呈示刺激の擬似単語をより効果的に作成する指標となり得るものであった。さらに、2つ目の実験である言語獲得前後の乳幼児を対象にした視線計測実験の実施を通して、集中力の維持等が困難な乳幼児に合わせた刺激の提示方法などを確立した。これらの結果を踏まえて実施される次年度以降の実験において、言語獲得や言語発達に対して音象徴が果たす役割が解明されることが期待される。以上のように、当該年度において期待通りの成果が得られたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は、まず言語獲得前後の月齢の乳幼児を対象に音象徴と言語獲得過程の関係を調べる。当該年度の結果を踏まえて視覚刺激や音刺激の呈示方法を改善した視線計測実験を実施する。さらに、言語発達質問紙を用いて被験者の言語発達段階を併せて調べる。これにより、言語発達と音象徴の関係をより多角的な視点から調べられることが期待される。 次に、音象徴と新たな語彙の結びつきを学習させて学習前後における言語獲得の変化を明らかにする。これにより、音象徴と言語獲得の因果関係を明らかにすることが期待される。
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Research Products
(6 results)