2018 Fiscal Year Annual Research Report
多波長観測とモンテカルロ数値計算による活動銀河核の構造と質量降着機構の解明
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17J06407
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
谷本 敦 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 超巨大ブラックホール / 活動銀河核 |
Outline of Annual Research Achievements |
超巨大ブラックホール(SMBH: Super Massive Black Hole)成長の歴史を解明することは、天文学の最重要課題である。銀河中心には、約1億太陽質量のSMBHが普遍的に存在し、SMBH質量と銀河質量には強い相関がある。この事実は、SMBHと母銀河が互いに影響を及ぼしながら、共進化してきたことを示唆する。しかしながら、銀河中心のコンパクトなSMBH(10^-6 pc)と母銀河(10^4 pc)が、どのような物理過程を通じて、互いに影響を与えてきたのかは謎に包まれている。 この謎を解決する鍵が、活動銀河核(AGN: Active Galactic Nucleus)である。AGNとは、SMBHへの質量降着により、その重力エネルギーを放射エネルギーへ変換し、銀河中心が明るく光り輝く現象です。すなわち、AGNとは、SMBHが質量を飲み込む成長過程であり、AGN観測により、SMBH成長の歴史を調べることが可能となる。 近年の多波長観測結果から、AGNの構造は、ガス・ダストからなるトーラス(クランピートーラス)が、SMBHと降着円盤を取り囲んでいる。このトーラス(1 pc)は、SMBHと母銀河の間に存在し、SMBHへの質量供給の役割を担う。すなわち、トーラス構造の解明は、SMBH成長を理解する上で必要不可欠である。しかしながら、トーラスの空間的分解は困難であり、その構造は未解明である。 そこで私は、クランピートーラスからのX線スペクトルモデル作成に取り組んだ。私は、モンテカルロ輻射輸送計算コードMONACOを用いて、トーラスの水素柱密度・トーラスの立体角・観測者の傾斜角等をパラメータとして、X線スペクトルを計算した。そして、世界中で最も使用されているX線スペクトル解析ソフトXSPECで、直接読み込み可能なモデル作成に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
広帯域X線スペクトルは、トーラス構造を調べるのに最適である。なぜなら、X線は全物質(ガス・ダスト)の構造調査が可能なためである。AGNのX線スペクトルは、次の3成分から構成される。成分1:降着円盤からの逆コンプトン散乱成分(直接成分)・成分2:トーラスからのコンプトン散乱成分(反射成分)・成分3:トーラスからの鉄輝線成分。特に反射成分の形状や鉄輝線の強度は、トーラスの水素柱密度や立体角に強く依存する。すなわち、これらの成分からトーラス構造の調査が可能となる。しかしながら、広帯域X線スペクトルからトーラス構造を調査するためには、複雑な幾何構造からのモンテカルロ輻射輸送計算が必要不可欠である。 そこで私は、クランピートーラスからのX線スペクトルモデル作成に取り組んだ。私は、モンテカルロ輻射輸送計算コードMONACOを用いて、トーラスの水素柱密度・トーラスの立体角・観測者の傾斜角をパラメータとして、X線スペクトルを計算した。そして、X線スペクトル解析ソフトXSPECにおいて、直接読み込み可能なX線スペクトルモデル作成に成功した。 さらに私は、作成したX線スペクトルモデルを、最近傍の隠されたAGNであるCircinus galaxyに適用した。隠されたAGNとは、コンプトン散乱に対し、光学的に厚いトーラスに囲まれた天体である。この場合、直接成分は強く光電吸収・コンプトン散乱されるため、反射成分が卓越し、トーラス構造を調べるのに最適な天体である。私は、X線天文衛星「すざく」・XMM-Newton・NuSTARの広帯域X線スペクトルを解析した。その結果、私はCircinus galaxyの広帯域X線スペクトル再現に成功した。私は得られた結果をまとめ、主著論文を出版した。私のこの研究は高く評価され、IAU Symposium 341では、ポスターアワードを受賞した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの単純な幾何構造からのX線スペクトルモデルでは、広帯域X線スペクトルを上手く再現出来なかった。すなわち、トーラス構造の調査が不可能であった。そこで私は、現実的な幾何構造(クランピートーラス)からのX線スペクトルモデル作成に取り組んだ。実際、私はこのモデルを用いることにより、Circinus galaxyの広帯域X線スペクトル再現に成功している。すなわち、本モデルを用いることで、AGNのトーラス構造の調査が初めて可能となる。 隠されたAGNは、トーラス構造を調べるのに最適である。近年、X線天文衛星Swift(Gehrels+04)の掃天観測により、約50天体の隠されたAGNが発見されている(Ricci+15)。しかしながら、X線スペクトルからトーラス構造を調べるには、掃天観測のみでは得られない、高精度・広帯域X線スペクトルが必要不可欠である。特に、10 keV以上の硬X線スペクトルが、トーラス構造を制限する上で、重要な役割を果たす(Tanimoto+19)。 そこで私は、X線天文衛星NuSTARにより観測された全ての隠されたAGNの広帯域X線スペクトルを解析する。X線天文衛星NuSTAR(Harrison+13)は、硬X線領域において、過去最高の感度を有しており、すでに約40天体の隠されたAGNを観測している(Marchesi+18)。解析の際には、私が作成したクランピートーラスからのX線スペクトルモデルを適用する。これにより、過去最高の精度でトーラスの構造を解明する。最後に、その構造とAGN光度の関係を調べる。これにより、SMBHへの質量降着率とAGNトーラスの関係を解明する。
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Research Products
(11 results)