2017 Fiscal Year Annual Research Report
明治初期訓読体小説における言語世界の形成――主人公としての書生の出現
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17J06618
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
飛田 英伸 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 漢文訓読体 / 書生 / 文体選択 / 鴛鴦春話 / 金雲翹伝 / 回世美談 / 花柳春話 / 坪内逍遥 |
Outline of Annual Research Achievements |
明治10年代に漢文訓読体が小説の文体に用いられたことが書生を主人公とする小説の成立につながったことを明らかにするべく、まず、当初の計画に則り、(1)「訓読体小説とその前後の小説における恋愛表象の比較」を行った。具体的には、以前中国清代の才子佳人小説『金雲翹伝』に基づいていることを明らかにした和田竹秋『鴛鴦春話』について、江戸期における『金雲翹伝』の翻案作と比較することによって、翻訳小説『花柳春話』の影響を受けつつ、才子佳人の恋愛の物語として『金雲翹伝』を受容した作品であることを示した。一方で、同じく『花柳春話』に影響を受けた『世路日記』と比べると、人情本の恋愛譚の枠組みも色濃く残っていることもわかり、どのような条件が働く場において成立したのかに応じて多元的に文体選択を捉える必要があることが明らかになった。そこで、訓読体で小説を書く際に規範となったのが翻訳小説『花柳春話』であったことを踏まえ、(2)「翻訳および創作小説における文体選択とその選択の成立の場についての検討」を行った。具体的には、幕末期から翻訳が流通していた『ロビンソン・クルーソー』の明治最初の翻訳にあたる山田正隆訳『回世美談』を分析し、訳者の履歴を明らかにすることで、漢字片仮名まじり文から漢字平仮名まじり文へと移行する訳文の文体が、教育の場において学習者を読者として選択されたものであることを示した。『回世美談』では、片仮名をより普遍的なものとして平仮名より上位に置く思考に基づいた文体選択がなされており、片仮名を用いた『花柳春話』の文体選択も同様に捉えられるが、坪内逍遥やその周辺人物の翻訳では平仮名を片仮名の下位にあるものとしてではなく使用するように考えられるため、複数の文体選択を包括する様式の形成過程を明らかにすることを目指して、(3)「文体の選択および移行に伴う小説様式の形成についての検討」を計画に加えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究結果を踏まえて計画に変更を加えたが、これによって、文体選択をより明確に整理することができ、研究の見通しがより明らかになった。 上記(2)の『回世美談』に関するの研究成果は、論文として投稿し、現在査読中である。また、(2)に関わる政治小説の文体についての研究成果、および(3)に関わる会話文の書式についての研究成果をそれぞれ口頭で発表した。(1)の『鴛鴦春話』に関するの研究成果についても、今後論文にまとめる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
上記(2)で記した片仮名を平仮名の上位に置く場合と、平仮名を片仮名に並ぶものとする場合との差異をより明確にし、文体選択が成立する場の差異を示すことを試みる。また、(3)の具体的内容として、主に会話文の書式と挿絵の形式に注目し、漢字片仮名まじり文で使用された様式と漢字平仮名まじり文で使用された様式とがどのように統一されていくのかについて明らかにすることを試みる。これらを通じて、書生を主人公とする小説がどのような文体選択を経て、どのような様式を与えられていくのかを明らかにする。
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