2017 Fiscal Year Annual Research Report
メカノトランスダクションによる心筋リプログラミングの効率化と分子機序の解明
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17J06637
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
黒津 祥太 慶應義塾大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | メカノトランスダクション / 心筋リプログラミング |
Outline of Annual Research Achievements |
心筋梗塞や拡張型心筋症により線維化した心臓は、心不全に至る。心不全に対する根本的な治療は心臓移植以外にないが、ドナー不足の問題があるため新たな治療法の開発が求められている。私が所属する研究グループは線維化の原因となる線維芽細胞を直接心筋細胞に分化転換(心筋リプログラミング)できる3つの転写因子(Gata4, Mef2c, Tbx5; GMT)を世界で初めて発見した。また心筋梗塞モデルマウスに、この3つの転写因子を注入することによって心臓再生に成功した。しかし、心筋リプログラミングによる心臓再生医療を実現するためにはさらなる効率の改善やメカニズムの解明が必要である。 この問題を解決するために私は、培養皿上で分化転換した心筋細胞に比べ、生体内で分化転換した心筋細胞の方が、成熟度が高い点に着目した。これは生体内環境が心筋リプログラミングを促進する可能性を示しているが、これまで足場の硬さなどの力学的刺激が心筋リプログラミングに与える影響やその分子メカニズムは不明であった。そこで私は、力学的刺激が心筋リプログラミングを促進するメカニズムを解明し、このメカニズムを活性化することによってさらなる効率改善を目指し、研究を開始した。 まず私は細胞培養ができる特殊なハイドロゲルを開発し、心臓内で細胞が足場の硬さから受ける力学的刺激を培養皿上に再現した。その結果、足場が柔らかくなるほど心筋リプログラミングの効率が良くなることがわかった。このメカニズムを解明するために、硬い足場と柔らかい足場で分化転換した心筋細胞の網羅的な遺伝子発現変化を比較した。その結果、柔らかい足場では細胞増殖や遊走などの線維化に関連する遺伝子発現が低下することによって、心筋細胞への分化転換が起こりやすくなっていることを突き止めた。本研究は力学的刺激が心筋リプログラミングを制御することを明らかにした世界初の研究である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時の研究計画は次の4点である。(1)生体内環境に働く力学的刺激を培養皿上に再現する。(2)(1)で確立した条件下において心筋リプログラミングを行い、分化転換の効率を検討する。(3)これまでの条件下において分化転換した心筋細胞と(2)までに確立した条件下で分化転換した心筋細胞の網羅的な遺伝子発現変化を比較する。(4)心筋リプログラミングを促進する、力学的刺激依存の鍵遺伝子Xを同定する。 これらの研究計画を遂行するために、まず私は細胞培養可能な特殊なハイドロゲルを設計した。このハイドロゲルは、ゲルと細胞接着に必要な細胞外マトリックスを直接結合させることができる。さらに最適な細胞外マトリックをススクリーニングし、生体内心臓の足場の硬さを再現した新しい細胞培養系を作成した。次に私は、この細胞培養系を用いて心筋リプログラミングを行った。その結果、足場が柔らかくなるほど心筋リプログラミングの効率が良くなることがわかった。さらに興味深いことに心臓の硬さである10 kPa前後がピークであることがわかった。次に私はこのメカニズムを解明するために、硬い足場と柔らかい足場で分化転換した心筋細胞の網羅的な遺伝子発現変化を比較した。その結果、柔らかい足場では細胞増殖や遊走などの線維化に関連する遺伝子発現が低下することによって、心筋細胞への分化転換が起こりやすくなっていることを突き止めた。さらに詳細な分子生物学的解析から、これまでに心筋リプログラミングを促進する、力学的刺激依存の鍵遺伝子Xを同定している。以上の結果から、本研究は計画通り順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から生体内組織の硬さから受ける力学的刺激が心筋リプログラミングを制御することを見出した。具体的には、心臓の硬さである10 kPa前後の足場で最も心筋リプログラミングが促進する一方、100 kPa前後の硬い足場では10 kPa前後の足場に比べ、心筋リプログラミングの効率が悪くなることがわかっている。興味深いことに、この100 kPaという硬さは、心筋梗塞などによって線維化した心臓の硬さであることが報告されている。したがって、これまでに同定した心筋リプログラミングを促進する、力学的刺激依存の鍵遺伝子Xを心筋梗塞モデルにおける心筋リプログラミングに応用すれば、生体内での心筋リプログラミングを促進することが期待される。そこで今後は心筋梗塞モデルマウスを用いて、心筋リプログラミングに対する鍵遺伝子Xの効果を検討する。 これまで力学的刺激として生体内組織の柔らかさに着目し、研究を行ってきたが、心臓は絶えず拍動するため、細胞に対する伸展刺激も重要である。そこで私は、ストレックス社製の培養細胞伸展装置を用いて細胞培養系の構築を試みたが、この装置のシリコンチャンバー(培養皿)の細胞接着性が低いため、伸展をかけた際に線維芽細胞が剥がれる問題が多発した。この原因として、製造工程でシリコンチャンバーに混入する不純物が考えられた。そこでソフトコンタクトレンズ製造のノウハウを持つメニコン社と共同で不純物を完全に取り除いたシリコンチャンバーを開発した。このチャンバーを用いることにより、シリコンへの細胞接着性が格段に向上し、伸展中に細胞が剥がれる問題が解決された。今後、この培養系を用いて心筋リプログラミングに対する伸展刺激の影響を検討する。
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Research Products
(4 results)