2017 Fiscal Year Annual Research Report
鉄の気化の同位体地球化学に基づくエアロゾル中人為起源鉄の海洋表層への影響評価
Project/Area Number |
17J06716
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
栗栖 美菜子 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
Keywords | 人為起源鉄 / 鉄安定同位体 / 鉄化学種 / 鉄制限 / 気候変動 / 鉄循環 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では工場等での人為的な燃焼を経て大気中に放出される大気中微粒子(エアロゾル)中の鉄に着目し、海洋表層における生物生産に対するその影響を明らかにすることを目的としている。修士課程までの研究で、人為起源鉄が特異的に低い鉄安定同位体比を持ち、トレーサーとして用いることができるということを明らかにした。本年度は人為起源鉄の発生プロセス、またその海洋表層への寄与評価に向けて大きく2つのことを進めた。 1つ目に、人為起源鉄の発生プロセスを知り、低い同位体比の原因を解明するため、排出源付近でのサンプリング、分析を行った。千葉県内の製鉄所付近において、エアロゾル試料のサンプリングを実施し、採取した試料は個別粒子観察のほか、鉄化学種の解析、鉄同位体の分析を行った。また、電力中央研究所の協力のもと、同研究所内の火力発電燃焼試験設備での石炭燃焼時に発生する微小粒子のサンプリングも実施した。さらに、閉じられた系において人為起源鉄の発生プロセスを追うため、実験室において条件を管理して燃焼実験を行った。今後更に条件を検討していく予定である。 2つ目に、海洋表層への人為起源鉄の寄与を知るために、白鳳丸KH-17-3次航海(2017年6月23日~8月9日)に参加し、太平洋を横断してエアロゾルと表層海水の採取を行った。海洋エアロゾルや表層海水中の鉄は非常に濃度が低いため、海水を採取するための容器やエアロゾルを採取するフィルターからの鉄の混入を防ぐ必要があり、航海前はそれらの洗浄に時間を要した。採取した試料は今後分析予定であるが、微量の鉄を他の混入なく測るための分析手法の確立が必要である。そのために、2018年3月にアメリカのサウスフロリダ大学に訪問し、海水中の鉄分析の手法を学び、現地で一部海水試料の分析も行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は1か月半に渡る研究航海への参加、そこでの海水やエアロゾルのサンプリングが最も大きな事項であったと考える。4月から航海が始まるまではほぼ毎日採取容器の洗浄に追われ、目に見える進捗が得られないのは苦しいところであったが、貴重なサンプルを採取することができたという点では大きな進展であった。また、アメリカサウスフロリダ大学の研究者のもとで、採取した海水の分析法を学ぶことができたことも非常に大きな進展であった。微量の鉄を正確に、他の鉄の混入等ない状態で分析することは非常に難しく、世界的にもできる研究室が少ない現状である。今回学んだことをもとに、自分の研究室でもできるように、2年目に立ち上げを行っていく予定である。 後半は実験室での燃焼実験を新たに開始した。温度や気化率と組み合わせて定量的に鉄の同位体分別を評価するためである。様々な加熱条件で違いを検証することを目的としたが、基本的な条件設定がうまくいっておらず、まだ分析に適した試料を得ることができていない。条件の最適化に積極的に取り組んでいく必要がある。この点では予想よりも進展が得られなかった。 また、電力中央研究所の協力のもと石炭燃焼実験施設での試料採取も行った。こちらは当初の予定にはない事項であったが、燃焼の条件がかなり明確な状態での試料採取をすることができると考え、実施に至った。 各試料の分析はある程度進んだが、論文化をさほど進めることができなかった。今後の論文化に向けて分析の効率化・スピードアップをしていき、積極的に執筆を進めていきたいと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として大きく3つのことを述べる。 1つ目に、航海で採取したエアロゾル試料と海水試料の同位体分析法の確立と、実際の分析を進めていく。両試料とも含まれる鉄の量が非常に少ないため、試薬や容器などに含まれる鉄の混入を防ぐことが重要であり、クリーンな環境での実験が重要である。海水についてはナトリウム等の塩が大量に含まれているため、脱塩が必要になる。また、他の元素から鉄のみを分離するために、カラムを用いて樹脂に通す作業が必要になるが、これまで行ってきた樹脂の容量よりも少ない容量で行う必要がある。これらの条件の確立を2年目の前半で行っていく予定である。後半は確立した方法をもとに試料の分析を進めていく。 2つ目に、鉄の同位体分別の定量的な評価に向けて、燃焼実験の条件の確立を行う。現状では管状電気炉に試料を入れて加熱し、発生した粒子をガラス管を介してエアロゾルサンプラーに流し、粒径を分ける方法をとっているが、電気炉内で気化して再凝縮した粒子をうまくとらえることができていない。2年目前半は、目的の粒子を捉えられるようにシステム改良していくことを予定している。その後は様々な条件(燃焼する試料や温度など)で燃焼実験を行い、同位体の分析を行い、同位体分別定量的評価を試みる。 3つ目に、これまでに人為起源鉄の排出源付近で採取した試料の分析、論文化を進めていく。同位体分析のほかに、溶解性の評価のために抽出実験や化学種の分析も組み合わせていく予定である。こちらはなるべく2年目に分析を終わらせて適宜論文化していく予定である。
|
Research Products
(4 results)