2018 Fiscal Year Annual Research Report
鉄の気化の同位体地球化学に基づくエアロゾル中人為起源鉄の海洋表層への影響評価
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17J06716
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
栗栖 美菜子 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 燃焼起源エアロゾル / 鉄安定同位体比 / 鉄化学種 / 海洋エアロゾル / 生物生産 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、工場や自動車等の人為的燃焼によって放出される大気中の微小粒子(エアロゾル)中の鉄(燃焼起源鉄)の生成過程に伴う同位体分別の定量的な評価をすること、また、鉄安定同位体比を用いて燃焼起源鉄が海洋表層の生物生産に及ぼす影響評価をすることを目的として研究を行っている。平成30年度は、主に以下のような事項を行ってきた。 i. 燃焼起源鉄の発生源付近での試料分析による鉄同位体分別の理解 様々な燃焼起源鉄の発生源付近(製鉄所、トンネル内、石炭燃焼、野焼き等)で採取された試料の分析を行った。マルチコレクター型誘導結合プラズマ質量分析計による鉄安定同位体分析の他、X線吸収微細構造法による鉄化学種解析や、透過型電子顕微鏡等による個別粒子観察と併せて、燃焼起源鉄の同位体分別プロセスを定量的に理解することを目指した。結果として、高温燃焼において鉄が気化する際に大きな同位体分別が起き、非常に低い同位体比を示すことが示唆された。また、これまで様々な場所で採取された試料の分析の結果から、燃焼起源鉄の鉄安定同位体比の代表的な値を提唱した。これを海洋エアロゾル中での燃焼起源鉄の寄与評価のためのトレーサーとして用いるために、海洋エアロゾルの分析を次項のように進めている。
ii. 海洋エアロゾルの分析による、海洋における燃焼起源鉄の寄与の評価 海洋上で採取されたエアロゾル試料の鉄安定同位体比、化学種分析等を行った。海洋エアロゾル中の鉄濃度は非常に低いため、分析の際には異物混入に対して細心の注意を払う必要がある。異物混入を抑えるため、クリーンな実験環境を整え、実験器具も最適なものを自作する等し、十分に分析が行える状況を確かめた上で実験を行った。分析の結果、大陸由来の空気塊の影響を受けたエアロゾル試料では燃焼起源鉄由来の低い同位体比が検出され、その海洋における重要性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は主に、(i)海洋エアロゾル・海水の同位体分析のための手法改良・分析、(ii)燃焼実験による同位体分別の理解、(iii)人為的な燃焼エアロゾルの発生源付近で採取された試料の分析をもとに、燃焼起源鉄の鉄安定同位体比を求めた結果の論文執筆を予定していた。 (i)について、従来の分析方法で分析可能な鉄濃度の高い海洋エアロゾル試料については分析を進めた。その結果燃焼起源鉄の低い同位体比の影響が海洋エアロゾル中でも見られていることが分かり、燃焼起源鉄の海洋での寄与の大きさが示唆され、この点について学会発表を行った。一方、外洋域では予想に反して自然起源の鉄よりも高い同位体比が見られた。この理由について今後更に検討を重ねていく予定である。 また、さらに低い鉄濃度の試料分析のため、高感度かつ高精度の分析法(ダブルスパイク法)を用いるために検討を行った。サウスフロリダ大学のConway研究室を訪れて学んだ手法をもとに、東京大学の実験室においてもダブルスパイク法の立ち上げを行った。この手法では、天然と大きく異なる同位体存在比をもつ鉄溶液(スパイク液)を試料に添加することで、分析装置内で起きる分別の補正をするが、スパイク液の正確な存在比を決める時点で難航し、この点は想定よりも進捗がなかった。最終的には確からしい存在比を決めることができたため、実際の試料の測定を今後進めていく。 (ii)については、(i),(iii)に予想よりも時間がかかったため、ほとんど取り組むことができなかった。次年度精力的に実験を進めていきたい。 (iii)は試料分析を終えて、本年度2報の論文を投稿・受理され、想定以上に進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は大きく2つのことに取り組む。 1つ目に、海洋エアロゾル・表層海水の各種分析を進めていく。試料は2017年に参加した学術研究船白鳳丸KH-17-3次航海において採取したものを主に用いる。平成30年度までにほぼ分析が行える状態になったので、今年度実際の試料の分析を進めていく予定である。海洋エアロゾル試料は、同位体分析に加えて鉄の抽出実験、放射光施設における化学種分析等を進め、溶解性を決める主要な要因を探っていく。 2つ目に、燃焼起源鉄の同位体比が低くなるメカニズムについて、より定量的な理解を目指し、燃焼実験・熱力学的な考察を行う。これまでの研究から、燃焼時の気化の過程で同位体分別が起きると示唆されたが、その分別の程度は気化時の化学種や温度によると考えられる。管状電気炉を用いて温度や燃焼物質を変えて燃焼実験を行い、気化した鉄を回収し、同位体比を測定し、熱力学的な考察と合わせて定量的な理解を進めていくことで、実環境で燃焼起源鉄が持ちうる同位体比の値の範囲を推定する。 上記を進めながら、論文執筆を精力的に進め、学会でも発表を行う。
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Research Products
(10 results)