2017 Fiscal Year Annual Research Report
遺伝的多様性の高い宿主-寄生者系での多様性維持機構と生態・進化動態の理論的解明
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17J06741
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊東 啓 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 数理モデル / 共進化 / 赤の女王 / ホスト-パラサイト / シミュレーション / 感染 |
Outline of Annual Research Achievements |
年次計画1年目の課題であるモデルの実装を無事に完了した。ここで実装したモデルは、当初の予定通り離散型の数理モデルである。当初の構想と大きな変更はない。また、シミュレーション実験の中でいくつか特徴的な個体群動態が観察された。これが進化と遺伝的多様性の維持にどのように関連しているかを、今後検証していく。想定していた通り、感染行列内の要素が、0と1のみの二値でだと多種共存は成立しなかった。つまり、申請書内の予備的なシミュレーションで示したように、微小な感染率が複雑に絡み合って遺伝的多種共存が成り立っていると考えられる。 そこで、各ホストと各パラサイト間の感染率を完全なランダムで与えた時のホストとパラサイトの共存種数を計測することにした。ランダムに感染率を与え生き残ったホスト数とパラサイト数の組み合わせを計測した。結果としては、ホスト種数とパラサイト種数が同じくらいのとき、もしくはパラサイトの種数の方が少し多いときに共存が成り立つ。また、感染率をランダムに与えるときに刻み幅によってその共存種数が変わることが分かった。特に着目すべきは、刻み幅を小さくすると、共存種数がホスト-パラサイト共に増加する傾向がある点である。つまり、応募時に予想していた通り、一見無意味な微小な感染確率が、ホスト-パラサイトシステムにおいて遺伝的多様性を維持する重要な機構として働いている可能性が出てきた。まずはこの結果を第一の成果として論文にまとめ、2年度目での投稿開始を目指すこととした。 本年度内に、本研究課題と関連の強い感染症に関する学会発表を2度実施した。第14回情報処理学会ネットワーク生態学シンポジウムと、第65回日本生態学会全国大会である。また、共著論文が2報Scientific Reports誌から発行された。また8月にはこれまでの研究成果が評価され、日本進化学会より研究奨励賞を受賞した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年次計画1年目の目標であったモデルの実装を無事に完了した。したがっておおむね順調な進捗具合だと判断した。シミュレーション実験の中でいくつか特徴的な個体群動態が観察された。応募時に予想していた通り、一見無意味な微小な感染確率が、ホスト-パラサイトシステムにおいて遺伝的多様性を維持する重要な機構として働いている可能性が出てきた。これは十分に論文として発表するに値する成果と言える。2年度目での投稿開始を目指しており、既に多数のシミュレーション実験が進行中であることからも、申請時の目標通りの順調な進捗と言える。 また平成30年度からは、バーゼル大学動物学研究所(スイス)のDieter Ebert教授の研究室に客員研究員として迎えられている。Ebert教授は本研究課題の研究領域で世界をリードする研究者であり、申請時にもEbert教授の論文を多く引用している。したがって、受入教室の主催者である吉田丈人准教授に加えて、Ebert教授と共同研究として進めることができるので、研究は今後ますます順調に遂行できると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は演算資源を有効に使い、シミュレーション実験を多くこなすことで理論を補強していく。主にパラメータの影響を検証するための感度分析を実施し、ランダムな感染行列を扱ってきたホスト-パラサイト系の実証研究について調査していく。これにより申請当初からの目標であった、理論と実証の両側面から統合的にこの生物(遺伝的)多様性の維持メカニズムを捉えていく。
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