2017 Fiscal Year Annual Research Report
犬移行上皮癌の発がん・進展全機構の解明と新規治療法の開発
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17J06806
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉竹 涼平 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | BRAF遺伝子変異 / 犬移行上皮癌 / COX2 / プロスタグランジン / MAPK経路 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、犬移行上皮癌におけるBRAF遺伝子変異の意義探索のため、①細胞の生存・増殖と②COX2/PGE2の過剰発現を介した炎症環境の構築、という2つの観点から細胞株を用いた研究を実施した。 BRAF阻害時の細胞生存・増殖への影響を更に深く探索するために経時的な細胞周期の変化を評価したところ、阻害剤を高濃度で添加した場合でも細胞周期に影響しないことが示唆された。一方で、このときBRAFの下流経路の抑制が一時的には認められるものの、バイパス経路の活性化や下流経路の再活性化が生じていることを示唆する結果が得られた。 BRAF阻害時には下流経路の抑制が生じた後にCOX2 /PGE2発現の抑制が起こった一方で、下流経路の再活性化が生じると共にCOX2/PGE2発現が再度誘導されることが確認された。また、siRNAを用いたBRAFのノックダウン実験ではBRAF発現は抑制されたものの下流経路とCOX2発現は抑制されない一方で、すべてのRAFアイソフォームに抑制活性を持つpan-RAF阻害剤を用いるとpERKの継続的な抑制とCOX2発現の抑制を認めた。以上のことから、BRAF阻害時には他のRAFアイソフォームを介した下流の再活性化機構が存在する可能性が示唆された。よって、更にCOX2/PGE2発現に関わる分子を探索するため、化合物ライブラリを用いてスクリーニング実験を行ったところ、RAF/MEK/ERK経路とCOX2/PGE2発現との関連がより強く示唆されたとともに、p38/JNK経路という新たな関連経路の存在が示唆された。 また、マイクロアレイによるBRAF阻害時の発現変動解析を行ったところ、MAPK経路の活性化とCOX2/PGE2発現を仲介する分子やERKの再活性化の分子メカニズムに関する検討を行う上での基盤となりうるデータが得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度申請者は、犬移行上皮癌において近年発見されたBRAF遺伝子変異の生物学的意義について細胞株を用いて腫瘍生物学的な側面から研究を行った。その中で、犬移行上皮癌のBRAF遺伝子変異が人悪性黒色腫における変異のように直接的に無秩序な細胞増殖を引き起こすという単純な役割を持つ変異ではなく、より上流の分子やARAF/CRAFといったアイソフォームと協調しながら犬移行上皮細胞の腫瘍化や生存・増殖における役割を担う変異である可能性を見出した。また、これまで得ていた予備的なデータを基に研究を進め、BRAF遺伝子変異がCOX2/PGE2の過剰産生による炎症環境の構築を介して更なる腫瘍の悪性化に寄与する可能性をより強固なものにした。以上のことから、今年度は変異の原因物質探索のための基礎的検討やBRAF遺伝子変異と炎症環境の構築によりフォーカスした研究を行うという当初の計画を一部変更して研究を実施することとなったものの、申請者は犬移行上皮癌におけるBRAF遺伝子変異が腫瘍の発生から悪性化までを担う非常に重要なキープレイヤーであると考えるに足るデータを得ており、研究はおおむね順調に進行していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究結果から示唆されたBRAF遺伝子と細胞生存・増殖との関連やBRAF阻害時のERKの再活性化経路に関して更に研究を深めていく予定である。当初の計画とは異なり、細胞株を用いた実験を中心とした腫瘍生物学的側面からの研究にはなるものの、本研究により犬移行上皮癌におけるBRAF遺伝子を中心とした発がん・進展全機構の解明という本課題の目的の達成にもつながると考えている。 細胞の生存・増殖に関しては、BRAF阻害薬のみでは犬移行上皮癌におけるBRAF遺伝子変異の意義を詳細に探索できないと考えられたため、今後はこの耐性発現機構及びBRAF遺伝子変異の細胞生存・増殖への意義のさらなる探索のためにBRAF阻害薬と化合物ライブラリを併用した薬剤スクリーニングを行う予定である。 炎症環境の構築に関しては、BRAF下流のMEK/ERK経路の他、p38/JNK経路という新たな経路が関わっている可能性が示唆されたことから、今後はこれらの経路の関連やBRAFとのクロストークについて詳細に明らかにする予定である。
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