2018 Fiscal Year Annual Research Report
量子情報理論を用いた孤立量子系の熱力学第二法則の構築
Project/Area Number |
17J06875
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
金子 和哉 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
Keywords | 統計物理 / 熱力学第二法則 / 非平衡統計力学 / 量子情報 / 冷却原子 / 量子多体系 / 量子エレクトロニクス / 数理物理 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き、孤立量子多体系における熱力学第二法則について理論的な研究を行った。サイクル操作により量子多体系から外部に取り出される仕事に着目し、理論的な解析とともに数値シミュレーションを行った。まず理論的に、「任意のユニタリ変換を一つ固定した場合、その変換により外部にマクロな仕事を取り出すことができるようなエネルギー固有状態の割合は、熱力学極限でゼロになる」という定理を証明した。これはつまり、サイクル操作を一つ固定したときには、ほとんど全てのエネルギー固有状態に対して第二法則が成り立っていることを意味している。また数値厳密対角化を用いた数値シミュレーションにより、系の可積分性が仕事の取り出しに与える影響を調べた。ユニタリ変換が非可積分なハミルトニアンにより生成されている場合には、有限の系であっても仕事を取り出せるエネルギー固有状態が全く存在しないこと、すなわち全てのエネルギー固有状態で第二法則が成立していることを発見した。この結果が意味するのは、孤立量子多体系における熱力学第二法則の成否と可積分性に密接な関係性があるということである。以上の成果は査読論文として、Physical Review E誌に掲載された。
また研究計画にない新たな研究として、量子情報のスクランブリング(量子情報の非局在化・非局所化)の研究を行った。これはスクランブリングが研究計画立案後に勢力的に研究が行われ、孤立した量子系における熱力学と関連があることが判明したためである。孤立量子系の熱平衡化で重要な固有状態熱化仮説とスクランブリングの関係について理論的に研究し、ダイナミクスのランダムネスの新しい定式化と固有状態熱化仮説の拡張を提案した。この拡張は、従来の孤立量子系の熱平衡化・第二法則と新しい概念であるスクランブリングをつなげる新しい成果である。この結果については、国内学会において発表を行っている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、前年度の研究とは異なる観点から孤立量子多体系における熱力学第二法則の研究を行い、新しい理論の確立、第二法則と可積分性の重要な関係生の発見ができた。これは当初の計画における、仕事を取り出せる操作のクラスと取り出すことのできない操作のクラスの違いを明らかにするという部分に対応している。以上の研究成果をまとめた論文も論文誌に掲載されており、研究は順調に進んでいる。しかしながら、操作の実行可能性との関係性については、明確な成果は得られておらず、次年度の課題である。
また当初計画していなかった研究として、量子情報のスクランブリングと固有状態熱化仮説についての研究に着手しており、固有状態熱化仮説の拡張などの成果を得ている。この研究について、より内容を精査すれば、論文として出版することが可能であると考えている。これは研究計画段階では予期していなかった成果であり、期待以上の進展と言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究としては、仕事の取り出しと操作の実行可能性の関係を明確化するために、リソース理論などの量子情報理論の枠組みを利用して今年度の研究成果の拡張を行う。量子情報的な観点から、系の可積分性以外の性質が仕事の取り出しの成否に関係するのかを明らかにする。また前年度に得た、熱浴と接した量子多体系の第二法則との関係性について、議論を行う。
さらに、量子情報のスクランブリングについての研究を進め、今年度の結果と合わせて論文の出版を行う。特に量子多体系のもつ対称性が固有状態熱化仮説の拡張に与える影響、固有状態熱化仮説の拡張が成立するための物理量の条件について研究を行う。適宜、厳密対角化などの手法を用いた数値シミュレーションを用いて、この問題に取り組む。
|
Research Products
(6 results)