2017 Fiscal Year Annual Research Report
シロアリにおける性特異的な繁殖虫分化制御機構の解明
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17J06879
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小口 晃平 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 繁殖分業 / シロアリ / 幼若ホルモン / LCMS / 補充生殖虫 / 形態改変 |
Outline of Annual Research Achievements |
シロアリはコロニー内には雌雄のワーカーと繁殖虫が同居し、個体間のコミュニケーションを介してカースト分化が制御される。シロアリの繁殖虫分化制御機構を理解するために、カースト分化に先んじて起こる生理活性因子の動態を理解する必要があるが、これは雌雄の繁殖虫の存在により制御されることが示唆される。そこで雌雄の繁殖虫の存在がワーカーの内分泌環境に与える影響を調べた。 まず繁殖虫と同居したワーカーの生理状態を評価するために、昆虫の脱皮や性成熟を制御する幼若ホルモン(JH)に注目した。雌、雄繁殖虫とワーカーを同居させ、液体クロマトグラフ質量分析(LCMS)や定量PCRにより、ワーカー体内の各生理因子の動態を継時的に調べた。飼育観察から対象種オオシロアリでは雄繁殖虫と同居すると約14日で雌ワーカーが繁殖虫分化し、同居後7日間がカースト決定に重要であることを突き止めた。LCMSを用い繁殖虫分化に先立ちJHの濃度が低くなることが示され、JH関連遺伝子の発現も下がる傾向にあった。さらにJH濃度低下が繁殖虫分化を引き起こすと考えられたため、JHの上昇が繁殖虫分化を妨げるか検証するためにJH類似体投与実験を行った。その結果、繁殖虫特異的な形態形成や卵巣発達が阻害された。これらから本種では雌雄の繁殖虫がワーカーのJH濃度を変化させることによって繁殖虫分化を制御していることが示唆された。 また飼育観察をする過程で、繁殖虫に分化する際に起こる形態形成において特異な発生現象を発見した。通常シロアリの腹部先端には、尾突起と呼ばれる機械感覚器官が存在し、繁殖虫に分化する際に交尾を成功させるためにメスのみでこの突起が消失する。この過程を詳しく観察することにより、脱皮の際に古いクチクラとともに尾突起の生細胞までもが離脱する、特異な仕組みによって外部形態を改変していることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成29年度末までの研究の進捗は当初の計画以上に進展したと考えている。その理由は、当初の研究計画段階にあったシロアリのワーカーの体内の生理状態の追跡調査が順調に遂行できただけでなく、その調査の過程でこれまでに他の昆虫では知見のない、特異な発生現象を見出した点にある。 当初の研究計画にあった生理状態の調査では、コロニー内のカースト・性比を変えることでワーカーの体内の生理状態が大きく変化することが判明した。この発見は、シロアリが個体同士の相互作用によって個体内の生理状態を変えることでカースト分化を引き起こす、これまでのカースト分化決定モデルを裏付ける重要な知見である。またカースト運命を決定する期間を明確に特定したことは、来年度以降の研究を円滑に進める上で重要な進捗であったと考えている。 また上記の調査の過程で発見した、ワーカーが繁殖虫に脱皮する際にクチクラの剥離とともに生細胞を含む上皮組織ごと離脱することによって形態を変える仕組みは、他の動物に見られない特異な現象であり、動物発生学における新知見ではないかと考えている。 以上のことから、現在までの研究進捗は計画以上に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
雌雄の繁殖虫とワーカーの個体間コミュニケーションが内分泌環境が変化するまでには、触覚において繁殖虫の存在情報が伝達され、脳などの中枢神経において情報が統合され、内分泌改変司令を送る過程を経ることが予想される。雌雄の繁殖虫の存在に応じ、どのような分子機構を介し内分泌環境の改変をもたらすか明らかにするために、内分泌環境が変化しカースト分化運命が決定する時期で触覚や中枢神経の網羅的遺伝子発現解析を行う予定である。これまでの研究により明らかとなった雌雄の繁殖虫の存在に応じ内分泌環境が変化するタイムスケジュールを基に、ワーカーの脳や触覚を摘出し全RNAを抽出する。大量の配列決定が可能な次世代シークエンサー(NGS)を使用し、全トランスクリプトの配列情報と発現量を決定する。得られたデータをもとに、バイオインフォマティクス解析により雌または雄繁殖虫の存在に応じた発現変動を比較し、繁殖虫分化制御に重要な遺伝子を明らかする。雌雄の繁殖虫の存在に応じ発現変動する各遺伝子は、定量PCRにより発現変動を詳細に調べるとともに、候補を絞りRNAiによる機能解析を行い,繁殖虫特異的な形態や行動に与える影響を評価する予定である。
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Research Products
(10 results)