2018 Fiscal Year Annual Research Report
ボノボにおける集団を越えた個体間関係:重層的地域社会構造の解明にむけて
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17J06911
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
徳山 奈帆子 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 特別研究員(SPD) (60779156)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 集団間関係 / 攻撃交渉 / ボノボ |
Outline of Annual Research Achievements |
コンゴ民主共和国・ルオー学術保護区における野生ボノボの生態調査: コンゴ民主共和国・ルオー学術保護区(ワンバ)において、H30年9月‐12月まで野生ボノボの行動観察を行った。保護区内には、行動圏が重複する4つのボノボの集団(E1、PE、PW、BI集団)が生息している。このうちPE集団を中心として観察を行った。集団内・集団間の攻撃交渉を分析したところ、オスでは集団が出会うと自集団に対する寛容性を高め、協力して他集団に対抗していた。このことから、オスでは集団間には競合関係があることが示された。しかし、集団間の攻撃の激しさは集団間での殺しが見られる近縁種のチンパンジーに比べて明らかに低く、オスが他集団の個体に怪我をさせることは一度もなかった。身体接触を伴う攻撃交渉の割合も、自集団個体を攻撃する場合と他集団個体を攻撃する場合で有意な違いが見られなかった。メス同士の攻撃交渉は集団内でも集団間でも非常に頻度が低く、異集団のメス同士が協力してオスを攻撃することもあった。この傾向から、ボノボにおいて他集団個体に対する行動傾向はメスとオスとで異なると考えられる。オス同士には繁殖を巡る競合が存在するものの、集団内でメスが優位であることから、オス同士の集団間の攻撃的行動は抑制され、ボノボの寛容で融和的な集団間関係が保たれていると考えられる。さらに、集団の違う個体同士の協力的な行動はヒトに特徴的であると考えられてきたものであり、ボノボにおいて異集団のメス同士の連合関係が観察されたことはヒトの集団間関係・協力行動の進化を考える上で非常に貴重なデータである。これらの結果を7月の日本霊長類学会、8月の国際霊長類学会で発表し、現在国際誌に投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度はコンゴ民主共和国にて3か月の調査を行い、個体識別に基づく精密な社会的交渉のデータを収集することができた。このようなデータは世界で唯一のもの であり、人類学にも動物行動 生態学的にも非常に価値があるものであると自負している。集団間の攻撃的交渉に注目した分析の結果を7月に行われた日本霊長類学会、8月に行われた国際霊長類学会において発表し、高い評価をいただくことができた。この結果を論文にまとめ、現在国際誌に投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度も、コンゴ民主共和国・ルオー保護区における、野生ボノボの集団内・集団間の社会交渉に関するデータ収集と結果の分析を行う。2019年3月‐8月の6月 間のコンゴ民主共和国への渡航を予定している。保護区内に生息する4集団のボノボのうち、主にPE集団の追跡を行う。集団内・外の個体との攻撃的・親和的交 渉を記録し、個体の属性(性、年齢、順位など)や出会う集団の違いによる、他集団個体に対する行動パターンの違いを明らかにする。この渡航で、予定していた データの収集を終えることができる見込みである。 帰国後はデータの分析とまとめを行う。集団間の親和・攻撃的交渉を包括的に分析し、論文にまとめる。
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Remarks |
井上研究奨励賞、井上科学振興財団、2019年2月4日
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Research Products
(8 results)