2017 Fiscal Year Annual Research Report
戦後沖縄のコミュニティ変容と再生に関する文化人類学的研究
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17J07129
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
山内 健太朗 首都大学東京, 人文科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 沖縄 / 文化人類学 / コミュ二ティ / 米軍基地 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、沖縄県の共同体について基地周辺もしくは基地返還跡地に着目し、文化人類学的視点により分析する。沖縄戦から70年以上経過した現在、基地の一部返還等がされているが、なおも米軍基地と隣合わせの地域コミュ二ティは多数存在する。また、「基地跡地問題」に関しては、これまで行政サイドからの跡地利用計画・都市構想が多く、過去に基地接収がされてきた住民のその後の自治・文化変容に基づいた研究・提言は少ない。そこで、沖縄県の基地周辺・返還跡地に住む人々を対象にフィールドワークをおこない、沖縄における社会・文化的な背景を考察しながら、米軍基地が共同体へいかなる影響を与えているか明らかにする。 沖縄県中部地区を対象に、主に中頭郡北谷町をフィールドワークを実施する。現在、北谷町は町面積の53%を占める米軍基地が存在している。嘉手納飛行場、キャンプ瑞慶覧、キャンプ桑江、陸軍貯油施設が町内に位置しており、北谷町民に対して様々な影響を与えている。北谷町砂辺地区においては嘉手納飛行場の航空機騒音によって、地域の住民が離れ、基地外居住の軍人家族と生活を共にしている。こうした中、社会・文化的な要素、例えば伝統的な祭祀を保ちながらいかにコミュ二ティを維持していくかということが重要な問題の一つとなる。 初年度では、夏季・春季に3度にわけて沖縄県北谷町砂辺地区及び沖縄県読谷村のフィールドワークをおこなった。エイサーや清明祭の参与観察とともに、砂辺地区の住民への聞き取り調査を実施した。いわゆる「騒音訴訟」の後の新たな移住者を含む「自治会」に加えて、従来より暮らす住民によって構成されている「戸主会」の調査をおこなった。砂辺地区においては村祭り(清明祭、獅子拝み、綱引き等)のほかに拝所が複数存在する。米軍基地の影響を考察しながら、祭祀の継続のありかたから沖縄県におけるコミュニティの再生について明らかにしていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の遂行を目的として、初年度では文献調査及び沖縄県及び奄美大島のフィールドワーク調査を実施した。 文献調査においては、近年の社会学・人類学において論じられている沖縄のコミュニティ論についての先行研究を収集すると同時に、そのうち一本の論文を翻訳し発表した[2018 レベッカ・フォーガッシュ 岩瀬・山内訳を参照]。 沖縄県のフィールドワークでは中頭郡北谷町及び読谷村を対象地域とした。両地域が位置する沖縄県中部地区は米軍による基地接収に伴った歴史を歩んできた。そのため、沖縄のコミュニティを明らかにする上では、こうした状況ふまえ、地域のみならず米軍基地との関係性を無視することはできない。 現在の調査状況では、北谷町砂辺地区を主な対象地域に戦前・戦後より砂辺に住む人々によって構成されている「戸主会」の調査を実施した。また、同地区において基地外居住を希望する軍人住宅が多数存在し、いわゆる軍人家族の調査も実施した。調査方法は主に半構造的インタビューを用いた。その結果、戦前・戦後の砂辺地区の変遷や、その後の基地接収の影響、また、近年においても村落祭祀の場である御嶽が、移住者や軍人などに荒らされる等の問題も明らかとなった。 戦後の余波として、現在も基地が存在する沖縄では、いかに祭祀を継承させていくかだけでなく、いかに継承させてきたかという視点の重要性が問われた。なぜならば、文化継承やそれをおこなう空間が沖縄におけるコミュニティのありかたに拘わっているためである。そのため、清明祭などの祭祀への参与観察をおこなった。参与観察に伴い地域住民と良好な関係を築くことができている。そのため、次年度においてはより調査の遂行が円滑におこなえることが予測されおり、初年度の調査の進捗状況は次年度においても連続性があるものであった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度においては、初年度においておこなった予備的調査に基づいて、本調査を実施する。調査対象地域は沖縄県北谷町砂辺地区を主な対象として夏季より長期的な滞在をおこなう。北谷町内の米軍基地は町面積の53%に及んでおり、嘉手納飛行場、キャンプ瑞慶覧、キャンプ桑江、陸軍油施設が位置している。そのうち、嘉手納飛行場の軍用地の接収・返還がおこなわれるだけでなく、軍用機の発する騒音は騒音訴訟として広く知られている。 調査方法に関しては、長期滞在のフィールドワークに基づき、聞き取り調査(半構造的インタビュー)及び参与観察をおこなう。初年度の文献調査によって収集した文献・資料等によって得られない情報を得るため、当該地域の人びとを対象にしながら主に「戸主会」のメンバーのライフヒストリ―の聞き取りを実施する。聞き取り調査は半構造的インタビューの形式を取り、村落祭祀の参与観察をおこなう。得られた調査データから基地周辺または基地返還地という特質が当該地域の社会・文化的な側面へいかなる影響を与えているか明らかにしていく。 また、比較として沖縄県読谷村への調査をおこなう。読谷村史編纂室と協力をおこないながら、砂辺地区との類似性と相違性を考察したうえで、沖縄県における基地周辺・返還地におけるコミュニティの再生と変容についてその実態を明らかにしていく。
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Research Products
(2 results)