2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J07408
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
納庄 一樹 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
|
Keywords | 大腸菌 / 脂肪酸 / fabB / cAMP / VBNC / コロニー / 遺伝学 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに、自然環境から様々な細菌が、寒天培地を用いてコロニーとして分離されてきた。しかし自然環境中の細菌の大多数は、通常の寒天培地上ではコロニーを形成しないことが明らかになってきた。コロニー形成に依存する現行の純粋培養法は、遺伝子や生命物質の多様性に富む膨大な微生物資源の大半に手が届かない壁に直面している。これに対し当研究では、大腸菌を用いた以下の2つの遺伝学的アプローチで、自然環境中の細菌のコロニー形成能が極めて低い要因の解明を目指した。 液体培地でなら、寒天培地に比べ 10 倍以上の細菌を培養できることが知られている。そこで我々は、寒天培地でのコロニー形成時には、液体培地の生育には必要のない何らかの遺伝子機能が必要なのではないかと予想した。この遺伝子を特定するため、液体培地では培養できるが、寒天培地ではコロニーを形成しない大腸菌変異株をスクリーニングした。その結果、脂肪酸合成に必須の遺伝子fabBの変異株は、液体培地では培養できるものの、コロニーを形成しないことがわかった。解析を進めた結果、コロニー形成には、液体培地での生育時に比べ多量の脂肪酸が必要であることがわかった。 上記とは別に、大腸菌でも、飢餓環境中に長期間曝されると、生理活性は保ちつつもコロニー形成能を失った状態、すなわちViable but non-culturable(VBNC)という状態に陥る事実に着目した。VBNC化を引き起こす遺伝的要因を特定すれば、環境中の細菌のコロニー形成能が低い要因の一端が解明できると期待した。スクリーニングの結果、cAMPを欠く大腸菌では、一ヶ月におよぶ飢餓ストレスに曝してもなお9割以上の細胞がコロニー形成能を維持することが判明した。すなわち、大腸菌は、飢餓条件に陥るとcAMPによって積極的にVBNC化することがわかった。本研究成果はMicrobiology誌に掲載された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は研究計画に従い、スクリーニングで分離されたfabB変異株の解析をさらに進め、脂肪酸量の要求性を定量的に比較した結果、スクリーニングの結果を裏付ける結果を複数得た。さらに、fabB遺伝子をプラスミド上に導入することでfabBの発現量を実際にコントロールした実験でも同様の結論が得られ、本研究の結論の妥当性を多面的に補強することができた。 またVBNC化の遺伝的要因を調べたスクリーニングおよび分離株の解析では、cAMPを欠失するとVBNC化しなくなるといった非常に興味深い結論を得た。さらに、VBNC化に関するスクリーニングとcAMPがVBNC化を誘導するマスターレギュレータであることを突き止めた一連の実験成果は、Microbiology誌に掲載された。 以上の2つの研究アプローチで得られた成果から、当初の計画以上に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
fabB変異株の解析を進めた結果、大腸菌は、固体培地での生育には、液体培養時に比べて多量の脂肪酸を必要とすることが判明したが、その原因を明らかにする必要がある。脂肪酸が十分に供給された場合にのみ働き出す何らかの分子メカニズムがコロニー形成に必須であるとすると、それらをRNA-Seqなどのオミクス解析で特定することができるかもしれない。また細胞膜の主要構成要素として脂肪酸は非常に重要で、脂肪酸組成により細胞膜の物理的性質が決定される。したがって、固体培地表面と細胞表層との相互作用が、脂肪酸組成によって大きく変わる可能性があり、これがコロニー形成能に影響を与えている可能性がある。こうした相互作用を解明するためには、固体培地を作成する際の固化剤を変更して応答を検証するとともに、相互作用を物理パラメータとして数理モデルに組み込み検証を行うなどの物理的な解析手法が必要だと考えられる。以上のように、オミクス解析などの生物学的な解析手法に加え、相互作用を物理学的な解析手法で検証するなど、多面的なアプローチが必要になると考えられる。 一方、VBNCの研究で特定したcAMPは、グローバルレギュレータであり多数の遺伝子を制御することが知られている。したがってcAMP制御下の遺伝子群の中にVBNC化を直接制御する遺伝子が存在するはずで、これらを特定する必要がある。これに対し、我々は既に大腸菌野生株とcAMP欠失株に対してRNA-Seqを実施しており、得られたデータをもとに候補遺伝子の絞り込みを行う必要がある。今後、候補遺伝子の欠失株or高発現株の作成などを通じて、大腸菌のVBNC化のメカニズム、すなわち積極的にコロニー形成を抑制する分子メカニズムの解明を目指す。
|
Research Products
(4 results)
-
-
[Presentation] Linking transcriptomes and single-cell Raman spectra: Towards in-vivo omics analysis.2018
Author(s)
Kobayashi-Kirschvink, K. J., Nakaoka, H., Oda, A., Kamei, K. F., Nosho, K., Fukushima, H., Kanesaki, Y., Yajima, S., Masaki, H., Ohta, K., Wakamoto, Y.
Organizer
Q-bio
Int'l Joint Research
-
[Presentation] Non-destructive prediction of transcriptomes from single-cell Raman spectra2018
Author(s)
Kobayashi-Kirschvink, K. J., Nakaoka, H., Kamei, K. F., Oda, A., Nosho, K., Fukushima, H., Kanesaki, Y., Yajima, S., Masaki, H., Ohta, K., Wakamoto, Y.
Organizer
62nd Biophysics Annual meeting
Int'l Joint Research
-