2017 Fiscal Year Annual Research Report
ペプチドループ配座と配位結合を利用したウイルス状巨大有限集合体の構築
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17J07449
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山上 樹也 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | βシート / ペプチド / 自己集合 / フォールディング / X線回折 / 配位結合 |
Outline of Annual Research Achievements |
ペプチドループ配座と配位結合を利用した自己集合構造の創出を目指し、平成29年度は、人工βバレル構造の構築を行った。この構造は、βシートが円筒状に巻いたものであり、これまで人工的な合成が困難とされてきた。中心のβシート部位は、ペプチド主鎖間水素結合によって非常に強固な構造であり、円筒状構造の上下には、ペプチドループの部位が存在する。この安定構造を基盤として、ループ配座を取り得るペプチド配列の探索を目指した。 βストランドとループ配座をもつ8残基のペプチドと金属塩の自己集合を行うと、βバレル構造が単結晶として得られた。大型放射光施設(Spring-8)にてX線回折実験を行い、βバレル構造の詳細な分子構造を明らかにすることに成功した。構造内部には空孔が存在し、有機小分子を取り込む骨格としての応用も期待される。 つづいて、先行研究と本研究で用いたPGP配列のペプチドが天然に存在するタンパク質中においてもループ配座をとりやすいことを確認するため、タンパク質構造データバンク(PDB)においてPGP配列のペプチドを検索した。約4000種類の天然タンパク質のうち、約130種類のタンパク質構造を抜粋し、構造中のそれぞれの配座を調べた。その結果、折れ曲がったループ配座(先行研究で観測された配座)と伸びきったループ配座(本研究で観測された配座)の2種類が、約90%の割合で支配的に存在していることが明らかとなった。この結果は、PGP配列のペプチドがループ配座をとりやすいという当初の仮説を支持するものであり、ウイルス状集合体の構築にも大きく寄与する知見が得られたと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
βストランドをとりやすいペプチドとループ配座をとるペプチドを芳香族アミノ酸を介して連結し、両末端をピリジル基で修飾した8残基のペプチドの設計と合成を行った。続いて、このペプチドと種々の金属塩との自己集合によって良質な単結晶(収率69%)が得られることを見出した。大型放射光施設Spring-8にて、得られた単結晶のX線構造解析を行った。その結果、得られた構造は、βストランドが円筒状に精密集積したβバレル構造であることが明らかとなった。これは、2本のペプチドと2分子の金属イオンからなる環状の逆平行型βシートが3つ精密に集積したβバレル構造であった。なお、このβバレル構造の内部には空孔が存在していた。このように、内部空孔を有するβバレル構造の化学合成は今回が初の例である。なお、このとき、PGP配列のペプチドは伸びきったループ配座をとっていた。なお、このループ構造は先行研究で観測されたものとは全く異なる形状であり、ウイルス状構造の創出にも有用なループ配座を見出したと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今回得られたβバレル構造の構造制御を行う予定である。まずはβストランドの長さによってβバレル構造がどのように変化するかを検討する。βバレルの内部空間の性質を微調整するため、様々なペプチドの側鎖、たとえば親水性や疎水性の側鎖が構造に与える影響を検証する。 また、βバレル構造の内部空間を利用した分子認識を検討する。今回得られたβバレル構造の内部空間は疎水性の環境であるため、低極性の有機小分子の認識を検討する。 さらに、ウイルス状構造の創出を目指して、βバレル構造を基盤とする新たなループ配座の探索も行う予定である。今回用いたループ部位のペプチドは3残基と非常に短いものであったが、より長いペプチドループを用いることで、構造の多様性を見出すことができると考えられる。
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Research Products
(6 results)