2018 Fiscal Year Annual Research Report
ペプチドループ配座と配位結合を利用したウイルス状巨大有限集合体の構築
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17J07449
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山上 樹也 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | ペプチド / 自己組織化 / βシート / βバレル |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、ペプチドループ配座と配位結合を利用した人工βバレル構造の機能化を行った。 平成29年度において化学合成に成功した人工βバレル構造(J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 8644-8647.)は、水や種々の有機溶媒に対して溶解性を示さなかったことから、本年度は、この構造の溶液構造を観測するべく構成するペプチドを可溶性の官能基で修飾し、βバレル構造の可溶化を目指すこととした。 ペプチドを構成するアミノ酸のうち、βバレル構造の外部を向いているフェニルアラニン残基の側鎖に対して、可溶性のジエチレングリコール(DEG)鎖を導入してβバレル構造の構築に取り組んだ。錯形成条件の検討の結果、望みのβバレル構造の単結晶が得られ、単結晶X線構造解析により、導入した官能基がβバレル構造の外部を修飾していることを明らかにした。この構造から、βバレル構造が有機溶媒への溶解性が向上していることが期待されたが、βバレル構造の溶解性が望み通り向上していることを溶液NMR測定によって明らかにした。 有機溶媒中での溶解性は確認されたものの、通常のタンパク質と同様の解析手法を用いることは依然として困難である。たとえば、タンパク質の溶液中での二次構造を推定する円二色性分光法は、有機溶媒中で測定することが困難であった。今後、βバレル構造の水系溶媒中への可溶化を行い、さまざまな構造解析手法で引き続き解析を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
βバレル構造の外部にフェニルアラニン側鎖が存在することがβバレル構造の形成に寄与していると考えられたため、続いてペプチド配列のうち、フェニルアラニンの芳香環を可溶性の官能基で修飾することを検討した。先に得られているβバレル構造の結晶構造からは、フェニルアラニン側鎖のパラ位が立体的に空いており、官能基修飾が可能であると考えられたため、この位置に官能基を導入することとした。導入する官能基としては、より高極性の溶媒への可溶化を目指すためにジエチレングリコール(DEG)鎖を選択した。このような人工アミノ酸を合成するため、チロシンのフェノール性水酸基をウィリアムソンエーテル合成を用いてDEG鎖で修飾した。さらに、先に示した配列のフェニルアラニンを合成したアミノ酸で置き換えたペプチド配位子を液相合成法によって合成した。 合成したペプチドとヨウ化亜鉛の自己集合を検討したところ、元々のβバレル構造を得る条件と同様の条件で単結晶が得られることを見出した。単結晶X線構造解析によって、同様の幾何構造を有するβバレル構造が得られたことを明らかにした。また、導入したDEG鎖は、設計通り、βバレル構造から周辺部へと伸びていることも明らかとなった。 得られたβバレル構造は、導入した可溶性のDEG鎖によって、有機溶媒への溶解性を示したため、NMR測定による溶液構造の解析も行った。プロトンNMR測定の結果、溶液中では金属イオンが解離したペプチド配位子と、対称性の高い、βバレル構造が熱平衡状態にあることが明らかとなった。さらに、より高濃度の錯形成条件では、平衡がβバレル構造へと偏ることも見出した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に引き続き、得られたβバレル構造の機能化を進める予定である。昨年度に合成に成功したβバレル構造は、比較的低極性の有機溶媒への溶解性はみられたものの、水系の溶媒へは溶解性がみられなかった。通常のタンパク質と同様の構造・機能解析を行ううえで、水系の溶媒系へと溶解させることが必要であると考えられる。この課題を解決するため、昨年度に行ったβバレル構造の機能化を水溶性の官能基を用いて行う。 昨年度に用いた官能基は、ジエチレングリコール(DEG)鎖の末端がメチル基で修飾されたものであり、これが水系への溶解性を示さない理由の一つと考えられる。そこで、DEG鎖の末端が修飾されていない、ヒドロキシ基のものを合成し、水系溶媒への溶解性を検証する。水系への溶解性が向上した場合には、通常のタンパク質と同様の構造解析手法(NMR、DLS、CDなど)を用いて構造を解析する。さらに、期待されるβバレル構造は、外部が親水性かつ内部が疎水性であるため、バレル構造内部への有機分子の取り込みも検討する。
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Research Products
(4 results)