2018 Fiscal Year Annual Research Report
逆ペロブスカイト酸化物の新超伝導体と関連物質の研究
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17J07577
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
池田 敦俊 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 超伝導 / 逆ペロブスカイト酸化物 / ディラック電子 / トポロジカル絶縁体 / トポロジカル超伝導 |
Outline of Annual Research Achievements |
2種類のSr(3-x)SnO (x~0, 0.5)試料について、液体ヘリウムを用いてメスバウアー効果の温度依存性を測定した。昨年度に観測された2つの状態のスズ(一方はSn4-状態、他方はストロンチウムが欠損した試料で多く見られる新しい状態のスズ)が再確認された。本年度は温度依存性より、各スズが周りの原子とどれだけ強く結びついているかを抽出した。さらに第一原理計算との比較により、新しい状態のスズがストロンチウム欠損に隣接していることを明らかにした。現在までSn4-以外のスズの陰イオン状態は観測されていないので、ストロンチウム欠損によって新しいイオン状態が実現している可能性がある。また、超伝導転移に伴ってメスバウアー効果に異常は見られなかった。この実験は京都大学複合原子力科学研究所との共同研究である。 超伝導を示すSr(3-x)SnO (x~0.5)試料についてミューオンスピン回転実験を行った。磁場下での測定では、超伝導転移温度でミューオン緩和率の増大が見られ、超伝導のバルク性が確認された。来年度はさらに低温までの測定を予定している。この研究はスイスのポール・シェラー研究所との共同研究である。 超伝導を示すSr(3-x)SnO単結晶の育成に取り組んでいる。現在は今までとは異なる反応によるSr(3-x)SnOの合成法を開発中である。単結晶が得られれば、極低温までのメスバウアー効果で超伝導転移に伴う異常が見られるか確認する。 Sr(3-x)SnOに関連する新しい逆ペロブスカイト酸化物超伝導体の探索も継続している。現在は様々な元素と組成について、Sr(3-x)SnOと同様の欠損によるキャリアドープを試みている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
採択時の予定どおり、Sr(3-x)SnOにおけるスズのメスバウアー効果を低温まで測定した。その結果、ストロンチウム欠損に隣接したスズが今までにない新しいイオン状態になっていることを支持する結果が得られ、「金属陰イオンを含む物質の研究」という本研究の動機付けがさらに確固たるものとなったから。超伝導転移に伴うメスバウアー効果の異常は見られていないが、試料の質を向上させて来年度も研究を続ける予定である。 申請時は予定していなかったが、Sr(3-x)SnOのミューオンスピン回転実験を行った。超伝導のバルク性が確認され、さらに超伝導の基本的性質のひとつである磁場侵入長を見積もることができた。これはSr(3-x)SnOにおける非従来型超伝導の検証への第一歩となったから。 Sr(3-x)SnOの研究に加えて、本研究のもう一つのテーマである関連物質における新しい超伝導体の探索も予定どおり進行している。来年度も欠損系やドープ系といった様々な組成の物質を合成し、超伝導などの新奇現象を探索する予定だから。
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Strategy for Future Research Activity |
Sr(3-x)SnOのミューオンスピン回転を0.2 Kまで測定する。Sr(3-x)SnOは5 Kと0.8 Kで二つの超伝導転移を示す。本年度は1.6 Kまで測定し、5 Kでの超伝導転移の詳細を明らかにした。そこで来年度は0.8 Kでの超伝導の観測を目指す。 Sr(3-x)SnO試料の質の向上に継続して取り組む。現在はフラックス法を用いた新しい合成法を開発中である。超伝導体積分率が大きい物が得られれば、メスバウアー効果と比熱を測定し、超伝導に伴う異常の検出に挑戦する。 予定どおり、Sr(3-x)SnOに関連する新しい逆ペロブスカイト酸化物超伝導体の探索も継続する。現在取り組んでいる物質系で超伝導を発見できない場合は、より幅広い関連物質において新奇現象を探索する。
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