2018 Fiscal Year Annual Research Report
Improvement in Estimating Hazards Caused by Explosive Cyclones on Ocean
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17J07627
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
北 祐樹 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 爆弾低気圧 / 波浪 / 大気海洋相互作用 / 結合モデル / Large Eddy Simulation |
Outline of Annual Research Achievements |
北西太平洋上を通過した爆弾低気圧による波浪について、WAVEWATCH IIIの20年間のハインドキャスト計算結果をコンポジット解析し、波浪の時空間発達を分析した結果をまとめた論文を昨年度投稿し、本年度に出版された(Kita et al. 2018)。その結果を2018年6月にハワイで開催されたAOGS 15th Annual Meetingで発表し、若手優秀発表賞を授与された。 爆弾低気圧や台風のような荒天域における波浪の発達や特性についてはあまり理解が進んでおらず、数値シミュレーションの精度も通常より悪化する傾向にある。より精度の高い波浪情報を得るために、大気海洋波浪結合モデルを開発し、2018年1月に大西洋北西部で発達した爆弾低気圧への波浪の影響を調べることにした。この時、波浪の大気への影響は海面粗度を波齢の関数にすることで導入した。波浪モデルを結合した場合、結合していない場合に比べて海面風速が強化し、最低中心気圧も2hPaほど低くなることが確認された。十分に発達した波浪は風との摩擦が小さくなるため、海面風速が強化された。風速強化に伴って低気圧中心への吹込みが強化され、爆弾低気圧がより強く発達したと推測される。また、爆弾低気圧は冬に主に発生するが、この時期は混合層深度が深いために、エクマン輸送は発生しても表層水温はほとんど変化しない。そのため、爆弾低気圧の海洋の応答性は台風に比べて低いこともわかった。 波浪の大気への影響は、①海面粗度、②水飛沫、③運動量フラックスの3種類が確認されているが、これらをすべて扱えるモデルは未だに存在しない。上記の研究は①のみ考慮しているが、本研究では③の影響を大気海洋波浪結合モデルで扱うことを目指して、波面の時間変化の影響を導入した大気境界層のLarge Eddy Simulationを行った。この数値実験は発展途上であるが、2月にはアメリカ大気研究センターを訪問して最先端の研究技術を学び、着実に数値実験の成功へと歩を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
波浪再現計算のコンポジット解析により、爆弾低気圧の名前の由来である急激な発達は、低気圧そのものと波浪の発達に時間差を生じることが明らかになった。その結果をまとめた昨年度投稿した論文は本年度の7月に無事に受理され、出版された。 本研究の根幹をなす大気海洋波浪結合モデルが8月頃に構築に成功し、様々な数値実験を行ってきた。計画していたモデル内容と若干の変化はあったものの、計画より早くモデル構築に成功したことは幸いであった。一方で、モデル間の相互作用を正確に表現する技術はまだ確立されておらず、当初計画になかった大気境界層のLarge Eddy Simulation(LES)を行う運びとなった。2月にはアメリカ大気研究センター(NCAR)を訪問することでそのシミュレーション技術を学び、新たな挑戦であるLESを当研究計画に組み込むことができる見込みが立った。大気LESにより波浪の方向スペクトルの乱流への影響を定量的に評価する数値実験は、2019年度前半に完了する計画をしており、それを大気境界層パラメタリゼーションに導入することにしている。新しいスキームを導入した大気モデルと波浪モデルの結合効果により大気海洋相互作用がより精緻に再現され、高度化された大気海洋波浪結合モデルが構築される計画である。
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Strategy for Future Research Activity |
結合モデルにおいて大気と波浪間の相互作用を正確に再現するため、大気境界層モデルでのLarge Eddy Simulationを用いて、方向スペクトルの大気に対する影響を定量的に評価する。具体的には、大気モデルの底面境界条件に波面を導入し、移流項に波浪の位相速度を加えることで、擬似的に波面が動く大気境界層モデルが構築できる(Sullivan et al., 2008)。これまで扱ってきたメソスケールの結合モデルにおいては波形時間変化や方向スペクトルを考慮することができないので、大気の乱流成分に対して時間発展する波浪の方向スペクトルのパラメータに対する感度実験を行うことで、大気乱流のパラメタリゼーションに波浪の方向スペクトルの影響を算入した新たなスキームを開発する。 新たな大気波浪間の結合スキームを用いた大気海洋波浪結合モデルによって爆弾低気圧の再現を行い、従来の結合モデルより現実に即した爆弾低気圧の研究が可能となる。波浪の海面摩擦への影響・波浪方向スペクトルが大気乱流に与える影響を感度実験によって定量的に評価し、波浪が爆弾低気圧の発達に与える影響を検証することができる。対象とする爆弾低気圧はこれまでと同様、2018年1月に大西洋北西部で発生した爆弾低気圧であり、沖合に多く設置されている海上観測と比較しながら、数値シミュレーション精度が最も良くなる計算方法を模索する計画である。これにより成果が期待される点は、大気境界層の数値計算精度の向上である。また、水飛沫も荒天下においては波浪から多量に発生するため、低気圧発達に大きな影響を与えることが考えられる。先行研究による水飛沫パラメタリゼーションも大気と波浪モデルに導入することで、結合数値シミュレーションのさらなる精度向上を計画している。
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