2017 Fiscal Year Annual Research Report
半乾燥地の外来種林の在来種林転換方法確立に向けた外生菌根菌の窒素獲得機能評価
Project/Area Number |
17J07686
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岩岡 史恵 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
Keywords | 窒素循環 / 土壌微生物 / 菌根菌 / 外来種 / 乾燥地 |
Outline of Annual Research Achievements |
中国の黄土高原には外来種であるニセアカシアの植林地が多数存在する。しかし、在来種であるリョウトウナラの天然林に比べて、ニセアカシア林のリター層は薄く、また土壌構造の発達も悪く、ニセアカシア林は水土を保持する能力が低いと考えられている。そのため、将来的にニセアカシア林がリョウトウナラ林へと転換されることが望まれるが、現在、ニセアカシア林でリョウトウナラの後継樹が生育する様子は見られていない。半乾燥地では窒素が植物の成長の制限要因となりやすく、ニセアカシア林においてリョウトウナラが生育しない要因の一つに窒素が関係している可能性が考えられる。これについて明らかにするために、本研究では、ニセアカシア林とリョウトウナラ林における窒素循環および植物の窒素獲得のメカニズムを解明することとした。リョウトウナラは窒素吸収の大部分を外生菌根菌に依存することが知られることから、特に外生菌根菌を介した窒素吸収に注目することとした。具体的には、①化学分析および分子生物学的手法を用いて、ニセアカシア林およびリョウトウナラ林の土壌における形態別窒素・微生物群集・物理化学性の関係および、それらの情報とそれぞれの林分に生育するリョウトウナラの根に共生する菌群集の関係から、ニセアカシア林とリョウトウナラ林の窒素循環メカニズムおよびリョウトウナラの共生する菌類の決定メカニズムについても解明する。加えて、②窒素の安定同位体測定法を用いて、リョウトウナラが外生菌根菌を介して、または介さずに吸収する窒素の形態や、外生菌根菌種ごとの窒素獲得特性について解明する。さらに、①②を目的とした研究の結果から得られる情報(接種すべき菌根菌種・適切な土壌条件など)を基に提案されるリョウトウナラの植栽方法を③フィールドで実践し、有効性を確かめる。これらのことを目的とし、研究を遂行している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、中国黄土高原のニセアカシア林およびリョウトウナラ林において計3回の調査を行い、①②の研究のために土壌・植物サンプルを採取した。また、サンプル採取時の土壌の物理化学性の測定や、サンプルからの可溶態窒素やDNAの抽出なども中国国内で速やかに行った。それらのサンプルに対して、可給態窒素の定量など化学分析や、次世代シーケンサーを用いた土壌真菌・原核生物群集および根の菌根菌群集の解析も順調に行い、①の研究を大きく進めることができた。また、①の研究に関して、半乾燥地の森林では窒素の形態変化は降水に強く反応することから、より詳細に窒素循環メカニズムを明らかにするためには降水と土壌窒素動態の関係を理解することも重要だと考え、降水傾度と土壌窒素動態の関係や水散布と土壌窒素動態の関係を明らかにする研究についても同時に行い、分析についても無事に終えることができた。さらに、リョウトウナラの植物の葉・根の窒素安定同位体比および土壌中の形態別窒素の安定同位体比の分析を行い、②の研究についても大きく進めることができた。加えて、リョウトウナラと他の樹種の窒素獲得様式を比較するために、ニセアカシア林・リョウトウナラ林に生育する林冠木・下層木の葉・根についても採取し、窒素安定同位体比の分析、および根についてはDNAも抽出した。また、③の研究については、既にフィールドに菌根菌を接種するなどして植栽したリョウトウナラ実生の生育データを取ることができ、③の研究についてもある程度進めることができた。これらの成果の一部は、国際学会や国内の学会やシンポジウムで英語発表2回含む合計3回発表した。また、国際誌にも査読有の学術論文が1報採択された。
|
Strategy for Future Research Activity |
①②の研究については、サンプルの採取および分析の大部分を終了することができたため、今年度はこれらのデータを解析し、まとめることに集中する予定である。結果をまとめるにあたって、解析手法、特にメタゲノムデータのコンピューター解析について学ぶ必要があり、ワークショップに参加するなどして解析手法についても深く学ぶ予定である。 また、③の研究のために調査地にも渡航する。菌根菌を接種するなどして植栽しているリョウトウナラ実生の生育データの採取、およびいくつかの実生を回収して化学分析を行い、窒素の吸収についても解析する。同時に土壌も採取し、土壌の化学分析結果と合わせて、リョウトウナラの生育に適切な土壌条件についても考察する。これらに加えて、昨年度生じた問題点の解決にも努める。①の研究について、現在、ニセアカシア林とリョウトウナラ林の繰り返し数が少なく、一般化するにあたって問題がある。そのため、ニセアカシア林とリョウトウナラ林の繰り返しを増やして、より一般的な研究へと発展させたいと考えている。また、これまでの研究を基に新たに疑問が生じたため、それを検証するために、昨年度に中国の調査地に仕掛けたサンプルがある。それの回収および分析・解析、および今までのデータと合わせての解析についても行い、今あるデータをより強化していきたいと考えている。また、②の研究について、根から抽出したDNAの解析がうまくできず、止まったままであるため、解析手法を変えるなどして問題の解決を試みる予定である。
|
Research Products
(5 results)