2018 Fiscal Year Annual Research Report
太陽スピキュール観測で探るコロナ加熱:波動は加熱に寄与しているか
Project/Area Number |
17J07733
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
鄭 祥子 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
Keywords | 太陽 / スピキュール / 彩層 / コロナ / 加熱 / 輻射輸送計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、IRIS の分光観測データの解析を中心に研究を進めた。 特に、太陽の極域コロナホールの太陽縁外に見られるスピキュールをMg II hk 線で観測したデータを解析した。すると、Mg II hk 線プロファイルは太陽縁からの高さによって特徴が大きく異なることが判明した。この観測的特徴を理解するため、一次元 non-LTE輻射輸送計算によるモデリングを実施した。その結果、中高度で観測される大きな線幅が説明するには、ランダムな視線速度を持つスピキュールが視線方向に多数あると仮定する必要があることがわかった。この際、導入したランダムな視線速度は、最大で 25 km/s 程度の速さとなることが分かり、この最大速度 25 km/sは、先行研究の撮像観測で見られた見かけの速さ、そして上昇・下降速度の振幅と同程度であった。この結果については平成30年度の国内学会等で発表を行った。また、査読論文雑誌への投稿を準備中である。また輻射輸送計算を実施するにあたっては、チェコのオンジェヨフ天文台に滞在研究を行い、ハインツェル氏と共同研究を行った。 上記研究を通して、スピキュールの上部については、視線方向に一つのスピキュールを分光観測していると仮定すれば、モデリングから物理量が引き出せる可能性があることが分かった。今後は飛騨天文台のドームレス太陽望遠鏡による多波長観測とそこで使用するスペクトル線のモデリングを通して、スピキュール上部の物理量の抽出に挑戦していく予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度から取り組んでいたIRISの撮像観測データからスピキュールの筋構造を抽出する研究は、波束を捉えるのに十分滑らかには筋構造を抽出するにいたっておらず、一旦休止することとした。その後速やかにIRISの分光観測データの解析を開始した。観測される Mg II hk 線プロファイルから、各時刻・各高さの線幅と線シフトを定量的に抽出した。しかしながら、もとの線プロファイルは太陽縁からの高さによって特徴が大きく異なる。つまり、高度が高くなるにつれ、プロファイルの形はダブルピークからシングルピークに移行し、ライン全体での明るさは一旦大きくなった後、小さくなる。ここで、こういった太陽縁外の分光スペクトル線が一体何を反映しているのか、一つのスピキュールだけを見ているのか否か、という問に答えるため、太陽縁外に見られる Mg II 線に対して一次元non-LTE輻射輸送計算によるモデリングを実施した。この際、チェコのオンジェヨフ天文台のハインツェル氏と共同研究を行なった。その結果、視線方向に一つのスピキュールだけを仮定しても、中高度で観測される線形状と比較的大きな線幅は説明がつかないことが判明した。そして、ランダムな視線速度を持つスピキュールが視線方向に多数あると仮定することで、中高度で観測される大きな線幅が説明できることが分かった。また、導入したランダムな視線速度は、最大で25 km/sの速さとなるような速度分布からランダムに抽出した。この最大速度25 km/sは、先行研究において撮像観測で見られた見かけの速さの振幅と同程度であり、また、先行研究で報告されている上昇・下降速度とも同程度である。つまり今回の研究で、分光観測される線幅を説明するような視線方向速度が、撮像観測で見られる見かけの速度と無矛盾であることを示すことができた。この結果については査読論文雑誌への投稿を準備中である。
|
Strategy for Future Research Activity |
分光観測による太陽縁外スピキュールの解析結果とそれに対する non-LTE 輻射輸送計算の結果について、現在論文を執筆中であり、これを第一優先に進める。その後、7月と8月に京都大学飛騨天文台ドームレス望遠鏡による観測を予定している。この観測では、太陽縁外のスピキュールを水平分光器で多波長分光する。この観測データを解釈するため、使用するスペクトル線で一次元non-LTE計算を実施し、各スペクト線の性質の違いを利用してスピキュールの物理量を決定する方法を確立する。具体的には、太陽縁外にある一つのスピキュールを視線方向に一様な平板として近似し、平板の温度・圧力・厚み・動径速度・乱流速度をフリーパラメタとしてモデリングを行う。使用する各スペクトル線に対して、様々なパラメタセットの計算を実施し、スペクトル線から抽出した特徴量(線幅や明るさなど)と対応づける。最終的には、観測されたスペクトル線の特徴量のセットから、フリーパラメタのセットを決定する。今年度も、チェコのオンジェヨフ天文台での滞在研究を予定しており、そこで特に輻射輸送計算を進める予定である。
|
Research Products
(7 results)