2018 Fiscal Year Annual Research Report
幼若期の超音波発声を指標とした新規行動試験法の開発と発達神経毒性機序の解明
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17J07847
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Research Institution | National Institute for Environmental Studies |
Principal Investigator |
木村 栄輝 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境リスク・健康研究センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 発達神経毒性 / 超音波発声 / 幼若期行動 / マウス / 臭素系ダイオキシン類 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、化学物質の周産期曝露が幼若マウスの鳴き声(超音波発声)に及ぼす影響を調べ、行動評価試験における超音波発声の有用性を検討することを目的として実験を行った。 平成29年度には、ダイオキシン類の中で最も毒性の強い2,3,7,8-四塩素化ジベンゾパラジオキシン(TCDD)の経胎盤・経母乳曝露が超音波発声の抑制を引き起こすことを明らかにした。そこで本年度は、TCDDと比べて10分の1程度の毒性をもつと考えられている2,3,7,8-四臭素化ジベンゾフラン(TeBDF)、ならびにほぼ毒性を持たないと考えられる2,3,8-三臭素化ジベンゾフラン(TrBDF)を用いて超音波発声への曝露影響を調べた。その結果、TeBDF曝露の場合はTCDD曝露用量の約10倍量を曝露することで超音波発声の抑制が生じることが分かった。一方、TrBDF曝露の場合はTCDDの約100倍量を曝露しても超音波発声への影響は認められなかった。さらに、ダイオキシン類曝露により発現誘導が引き起こされるCyp1a1、Cyp1b1、Ahrr遺伝子の発現量について調べた。TeBDF曝露をうけた幼若マウスの肝臓ではこれらの遺伝子の発現量が増加していたのに対し、TrBDF曝露マウスの肝臓では発現量の変化は見られなかった。 これらの結果から、ダイオキシン類の毒性の強さを反映した超音波発声の抑制を捉えることに成功し、加えて超音波発声の抑制について遺伝子の発現解析に基づく曝露影響と矛盾しない成果を得ることできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究では、ダイオキシン類の毒性の強さを反映した超音波発声の抑制を捉えることに成功し、発達神経毒性を評価する上で超音波発声がもつ指標としての有用性を支持する結果を得ることができた。また、ダイオキシン類の曝露によって発現が誘導される遺伝子群についても、超音波発声の抑制が認められた曝露条件において遺伝子の発現増加を肝臓にて認められ、行動レベルの曝露影響を裏付ける分子レベルの変化を捉えることができた。これらの研究から、超音波発声が行動レベルでの影響を捉える指標としてだけでなく、分子レベルの解析を通して毒性メカニズムに迫る可能性を示すこともできたと言える。脳や腎臓など肝臓以外の臓器組織についても遺伝子の発現解析など毒性メカニズムに迫る実験に着手できる態勢をつくることもできた。 また、発達障害モデルマウスを用いた超音波発声試験についても予備実験を終えることができ、来年度に実験結果を得られる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、化学物質曝露と超音波発声とをつなぎ合わせるメカニズムの解明に取り組む予定である。曝露をうけた幼若マウスの脳で起きている変化に加え、肝臓や腎臓などの末梢組織への曝露影響が超音波発声の抑制に関与している可能性についても検討していく。塩素系および臭素系のダイオキシン類の曝露において超音波発声の抑制が認められたことから、これらの受容体として機能する芳香族炭化水素受容体に着目した実験も検討していく。加えて、発達障害モデルとなる遺伝子改変マウスを用いた超音波発声の解析にも着手し、超音波発声の制御に関わる遺伝子や神経回路、脳部位の絞り込みも進めていく。
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