2017 Fiscal Year Annual Research Report
ERK, Aktのシグナル動態によるS/G2/M期進行の制御機構の解明
Project/Area Number |
17J08016
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
眞流 玄武 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | シグナル伝達 / 細胞周期 / ライブセルイメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では細胞内シグナル伝達分子のERKおよびAktの活性の動的変化がS/G2/M 期の進行に及ぼす寄与を明らかにすることを目的とした。平成29年度は1. 細胞周期を通じたERKとAktのシグナル活性の動的変化の観察、2. 画像解析によるシグナル活性の定量化、3.細胞周期操作のための光遺伝学の導入を行った。 ”細胞周期を通じたERKとAktのシグナル活性の動的変化の観察”においては、前年度に確立したシグナル活性と細胞周期進行の同時測定系を改良するため、G1/S期の細胞周期マーカーであるSLBPを測定系に導入し、細胞がG1期・S期・G2期・M期のどの状態であるかを区別することを可能にした。この実験系とステージトップインキュベーターを備えた顕微鏡を用いることで細胞周期を通じたシグナル動態を観察した。また、観察対象の細胞が観察中に視野外へ移動することを防ぐため、観察用ディッシュにマイクロパターン加工を施す技術を導入し、細胞を視野内に閉じ込めることにも成功した。 ”画像解析によるシグナル活性の定量化”では、画像解析ツールのCellTK (Kudo et al., Nat. Protoc., 2017)を使用し、細胞の追跡とシグナル活性の定量化を行った。シグナル活性阻害剤を添加した細胞と通常の培養条件下の細胞とを比較すると、G1期やS期の長さに違いが生じることが観察され、シグナル活性の状態が細胞周期の長さを決定していることが示唆された。より詳細なシグナル動態と細胞周期の関係に関しては現在解析中である。 "細胞周期操作のための光遺伝学の導入"では、Akt活性を青色光照射で制御するための実験系の構築に取り組み、一過的な活性化パターンをつくることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2種類の細胞周期レポーターを併用することにより、G1/S/G2/M期、それぞれの細胞周期段階におけるERK, Aktの活性状態のより詳細な解析が可能になった。これらの細胞動態の解析を画像解析プログラミングを用いて行うことにより、これまで1細胞ずつタイムポイントごとに計測していた蛍光輝度情報をハイスループットに得ることができるようになった。シグナル活性阻害剤の有無やそのターゲットにより細胞周期の進行の様子に違いが見られた。特に、PI3K-Akt経路の阻害により、S期の期間が伸びることや、G1/Sのチェックポイントを通過できなくなることがわかってきた。これらはAktはアポトーシスや細胞生存において重要な役割を果たすといった、これまでの通説に新たな知見を付け加えることができると考えられる。 また、これらの定量データと細胞の表現型を関連付けた統計モデルの妥当性を裏付けるための光遺伝学を用いたAkt活性の操作技術の確立にも取り組み、こちらも高い再現性で活性操作が可能になっている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに取得した定量データからシグナル動態と細胞周期進行の統計モデルを作成し、ERKとAktの細胞周期進行における寄与を明らかにする。これらの寄与を検証するために、光遺伝学の技術を用いてERK, Aktの活性の操作を行う。ERK, Aktの活性が阻害され、細胞周期が延びた状態の細胞中のERK, Aktの活性を操作し、S期の時間の短縮やG1/Sのチェックポイントの通過が誘導されるかを確認する。 また、PI3K-Akt経路の阻害による、S期の期間が伸びることや、G1/Sのチェックポイントを通過できなくなるという現象がどの分子を介して起きているのかを調べるために、PI3K-Akt系路の下流の分子によって発現が制御されているとされている細胞周期抑制因子のp21やp27をCRISPR/Cas9法を用いてノックアウトする。これらの細胞でPI3K-Akt経路の阻害下においてS期の長さやチェックポイント通過に影響があるかを調べる。 以上の情報をもとに数理モデルを構築し、実験から推察された分子メカニズムが妥当であるかの検証も行う。
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