2017 Fiscal Year Annual Research Report
The gluon saturation effects in high energy physics
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17J08072
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
萩原 慶一 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 核子構造 / ウィグナー関数 / 核子のエントロピー / 楕円形フローの生成 |
Outline of Annual Research Achievements |
核子内部のパートン分布関数を、実験の結果から直接的に求める事ができれば、格子構造の理解の大きな助けになる。申請者たちの研究では、核子のかすり衝突での2ジェットを生成する過程の散乱断面積からウィグナー関数を構成できることを示した。これは、この散乱過程では運動量移行がとても小さいことにより、断面積とウィグナー関数の対応をつけることができるようになったからである。これにより、LHC実験などで核子のグルーオンに対するウィグナー関数を求めることが可能となった。 ウィグナー関数の現象論への応用も、2つ達成できている。 1.あるラピディティーでの核子のグルーオンのウィグナー関数から得られるエントロピーの評価を行った。ウィグナー関数は正定値でないため、そのままではエントロピーを定義できない。そこで、量子力学で用いられている、ウィグナー関数をガウシアンで粗視化した伏見関数を用いる。伏見関数は量子力学では正定値で有ることが証明でき、エントロピーを定義することができる。結果エントロピーはビヨルケン変数xの不冪に比例し、xが小さくなるに連れ無限に増大することを示した。また、グルーオンの分離、結合過程を取り入れたモデルを用いてエントロピーを評価し、エントロピーはxが小さいところで飽和すること示した。 2.pA衝突やpp衝突のスモールシステムで楕円形フローが実験で観測されており、その理論的理解が求められている。この研究では、ウィグナー関数の位置と運動量の相関が楕円形フローにどう影響するかを調べた。楕円形フローの計算にはn粒子の散乱過程が用いられている。そのため、我々は陽子内のn粒子と原子核または陽子との散乱を考えることにする。陽子内のn粒子の記述にはマルチパートン分布関数を用いて、n粒子間の相関を取り入れた。計算の結果、楕円形フローv_2 {2},v_2 {4}が生成されることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究は、核子構造を調べる上で基本的なウィグナー関数を、実験で観測される部分断面積と対応をつけることができた。これはウィグナー関数の性質を調べる上で、大きなステップである。これにより、直接実験の結果から核子構造の性質を調査可能になった。 さらに、現象論での応用を行うことができ、核子の持つエントロピーや楕円形フローの生成という本研究の目的以上の成果を残せた。 今年度の目標であった、カラー数が有限のウィグナー関数の性質を探る事ができなかった。そのため、今年度の進捗は、現象論での応用の成果と合わせると、概ね順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究では、カラー数が大きい極限での理論計算のみ行った。現在、カラー数が有限での理論計算に必要な、B-JIMWLK方程式の解を求めることに成功している。そのため今後は、ウィグナー関数の有限のカラー数での影響を調べる予定である。さらに、カラーの閉じ込めの効果の取り入れ方を、実際の散乱データから読み取り、そのウィグナー関数への影響を定量的に評価する。
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Research Products
(3 results)