2017 Fiscal Year Annual Research Report
ゾンビ映画研究ーー植民地主義とポストヒューマニズムの観点からーー
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17J08232
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
福田 安佐子 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | ゾンビ / ポストヒューマニズム / ポストヒューマンの表象 / 身体論 / ホラー映画史 / 映画の特殊メイク・技術史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、主に1968年以降と、2002年以降のゾンビにおける身体表現の差異についての分析を集中的に取り扱った。中でも、7月2日に行われた表象文化論学会では、パネル「エンボディード・ポストヒューマン」を組織し、うちの一人として発表を行なった。ここでは、ポストヒューマニズムの言説が、現在どのような変遷を遂げているか、主に身体と精神、もしくは物質と情報の二元論についての思想の移り変わりに着目した。主に、ハラウェイ、ヘイルズ、ブレイドッティが挙げられる。さらに、サラ・ラウロ&カレン・エンブリによる『ゾンビ・マニフェスト』では、このポストヒューマニズムの言説における妥当なモデルとして、ゾンビを挙げている。このような側面から、そのゾンビの変遷を概観すれば、1970年代にゾンビ表象が隆盛した背景には、同時代に発展した、医療技術の発展が推測される。一方で、2013年の『ワールドウォーZ』などの作品におけるゾンビの身体表象はこれまでのそれとは全く異なっている。ここではその身体を、昆虫やウイルスの集団的行動のそれと比することができるのではないか、と仮説を立てた。この研究成果より導かれた新たな論点は、雑誌「ユリイカ」への寄稿論文「呪いは電波にのって:スティーヴン・キングのゾンビと「見えないもの」」にて論じた。ここでは『ワールドウォーZ』と同じように、スティーブン・キングによる『セル』およびその映画化作品でのゾンビもまた、新たな身体表現を獲得しているとし、その理由を、電波やウイルスといった、肉眼では見えないが、身体に影響を与える恐れのあるもの、への恐怖の新たな表現としてのゾンビがあることを論じた。またアウトリーチ活動としては、シンポジウム「『新世紀ゾンビ論』と『ゾンビ学』を読む-藤田直哉氏、岡本健氏との対話」では、国内で初めてゾンビを学術的研究の対象として詳述した二冊についての書評会を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
口頭発表「ポストヒューマン的身体としてのゾンビ」では、まず1990年代以降の主に現代思想分野に現れたポストヒューマニズム議論の変遷を明らかにし、その上で現在、ラウロら(2013)による議論において、いかなる身体がポストヒューマニズムの言説において俎上に載せられているかを論じた。しかし、そこで一括りにされている議論されているゾンビの身体とは、1970年代を前後して登場したものと、2013年の映画「ワールドウォーZ」のそれとは全く異なる身体観によって構想されている。すなわち、70年代以降に登場したゾンビとは、主に医療技術の発展に伴い生政治的な権力によって把握されるようになった身体と地続きであり、一方で2013年に描かれたものはもはや一個の身体を持たないものの群れとして描かれている。このような全く新たな描写の要因には、メディア論においてサッカー(2005)などが論じたように、人間の身体や生を現代のメディアがいかに捕縛しているか、が深く関わっている。次に、寄稿論文「呪いは電波にのって:スティーヴン・キングのゾンビと「見えないもの」」でも、作品『セル』に描かれているゾンビの身体は、放射線や電波といった目には見えないメディアに対する驚異の影響が見られることを明らかにした。昨年度提出した研究課題では、主に80年代から21世紀にかけての特殊メイクの技法の変遷をめぐってゾンビの身体表象の変容を探ることを意図していたが、このように本年度は、21世紀に入ってのちの撮影技術の発展に伴って可能になった、より人間の身体からかけ離れた表現が可能になったことにより、いかに新しい脅威を反映してすることが可能になったか、またはそのようなメディアの技術そのものの存在が、新しい恐怖を生み出すに至ったかという側面からの研究課題を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の今後の予定は、主に昨今のゾンビをめぐるホラー映画や SF 映画において、いかなる技術やメディアの存在が新たなる恐怖を生み出しているか、またそれはどのように人間の身体イメージへと投影されているかを明らかにし、これらの作品における恐怖の根底に流れるものを突き止めることである。またここで、人間の身体イメージへと接続される技術や新たなメディアについての言説によって、ポストヒューマニズムや生政治の理論を再考し、再構築するための有効な論点を獲得することができると考える。ゾンビのみならず、様々なモンスターに視野を広めつつもその中で人間の身体観の変容に直接的な影響を受けているものを具体的対象とし、それを論じる上で、ポストヒューマニズムの言説 と表象をその理論的な支柱に置くためにも、メディアの発展やそれに伴うイメージ学での最新の言説を中心に分析を行い、それらの相互影響にはいかなるものがあるのかを明らかにしていく。その際にメディアと名指されるものは、情報を媒介するという意味で広いものである。それはテレビやインターネットの みならず、肉眼では見えないものを可視化させる視聴覚映像やその技術を指す。さらにはそういった情報を提供し流通させるものとしてのメディアとは、前時代的な生政治の理論が指していた個人を監視し、管理する政府や権力だけではない。すでに現代では、その中心的な統治方法のみならず、匿名的で多数のものが、同じように多数のものを監視する体制を創出している。このような多数のもの、「身体なき器官の群れ」(ラウロ,2013)と呼ばれる現代の社会的身体を含めた人間の身体をめぐるイメージが問題となる。
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Research Products
(7 results)