2018 Fiscal Year Annual Research Report
マグノニクス技術の創成に資するスピン波生成・伝播・位相特性の電界制御
Project/Area Number |
17J08317
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
宇佐見 喬政 東京工業大学, 物質理工学院, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
Keywords | スピン波 / マグノニクス / 強磁性共鳴 / 磁気緩和 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では磁性の電界制御が可能な磁性/誘電体ヘテロ構造を持つマルチフェロイクスを用いることで、消費エネルギーの少ないスピン波制御技術の実証を目的とする。上記の目的を達成するために反強磁性/強磁性界面に着目した。強磁性領域で生成されたスピン波が強磁性/反強磁性界面を通過する際に、その振幅・位相の変調効果が期待されるためである。強磁性/反強磁性界面を形成するためにFeRh規則合金の特異な磁気特性に着眼した。B2規則化したFeRh合金は室温において反強磁性状態を示す。ところがイオン照射などにより結晶構造にdisorderが導入されるとその部分のみ強磁性状態に変調可能であることが報告されている。前年度、イオン照射により変調した強磁性FeRhにおいてスピン波の伝播を試みたが、伝播を検出することができなかった。そこで、イオン照射を施した強磁性FeRh薄膜において強磁性共鳴を行った。これによりギルバートダンピング定数を算出することができ、スピン波の伝播長を見積もることが可能である。しかしながら、明瞭な強磁性共鳴信号は観測することができなかった。そこで、この合金における磁気緩和特性を精査するために、ダンピング定数のRh組成依存性を評価した。その結果、Rhの組成が20%付近においてダンピング定数が極小値をもつことが判った。さらにRh組成が20%付近においてダンピング定数が9×10-4となり、他の金属材料と比較しても小さな値を示すことが明らかとなった。理論研究によるとギルバートダンピング定数はフェルミ準位における状態密度の大きさに比例することが示されている。そのためイオン照射によって強磁性状態に変調したFeRh薄膜で強磁性共鳴が確認できなかった原因として、フェルミ準位における状態密度に関連して磁気緩和が顕著となった点を挙げることができる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
反強磁性/強磁性界面におけるスピン波の伝播特性変化を評価するためには、イオン照射により誘起した強磁性を示すFeRhにおいて強磁性共鳴を測定する必要がある。しかしながら、明瞭な強磁性共鳴信号を取得することができず、スピン波伝播の検出には至っていない。一方でFeRhのダンピング定数のRh組成依存性から、フェルミ準位における状態密度の大きさがダンピング定数に大きな影響を及ぼすという新たな知見を得ることに成功した。今後、磁気緩和を抑制することが可能な好適な状態密度を持つ薄膜試料を作製することで目的を達成するための見通しが立ってきた。以上に基づき上記の評価とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
ギルバートダンピング定数のRh組成依存性の評価により、フェルミ準位における状態密度がダンピング定数に大きな影響を与えることが明らかとなった。今後はギルバートダンピング定数の温度・構造秩序度依存性の評価行い、最適な成膜条件を検討し、スピン波の伝播を試みる。その後、電界誘起により反強磁性/強磁性界面を実現し、界面がスピン波に及ぶす影響を精査する。具体的には強誘電体BaTiO3基板上に最適化した条件のもとでFeRh規則合金を成膜し、細線状に加工を行う。電界印加のため細線側部に電極を設置し、直流電場の印加により弾性ひずみを誘起して磁性状態を変調し反強磁性/強磁性界面を実現する。これにより、反強磁性/強磁性界面に起因するスピン波の伝播・位相特性の変調効果を調査し、電界によるスピン波伝播特性制御の実現を目指す。
|