2017 Fiscal Year Annual Research Report
表面振動分光を基軸とした氷表面の不均一触媒作用の解明
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17J08352
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大槻 友志 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 氷 / 表面 / 分子構造 / 和周波分光 / Rh(111) |
Outline of Annual Research Achievements |
氷はオゾン層破壊などの反応場として機能している。そのような化学反応を分子論的に理解する上で、まず氷表面の構造を分子レベルで解明することが重要である。そこで、ヘテロダイン検出和周波発生振動分光(HD-SFG)を用いて研究を行った。試料は、超高真空槽内で作製したRh(111)清浄表面上に、同位体希釈HDO氷薄膜を結晶成長させることで作製した。HDO分子の水素結合OH伸縮振動領域におけるHD-SFGスペクトルは、低波数側に正、高波数側に負の信号が観測された。正の信号は真空側を向いたOH、負の信号はバルク側を向いたOHに帰属される。OH波数は水素結合強度が強いほど低波数になるので、下向きのOHの方が上向きのOHよりも分子間距離が長いことを示している。したがって、氷表面において分子配向によって水分子の位の異なる不均一な表面構造が実現していることが明らかになった。この研究と平行して、以下のような知見を得た。 HDO氷においては、個々のOH基はODに囲まれているが、OH伸縮振動はOD伸縮振動と波数が大きく異なるため、相互作用せずに孤立している。一方でH2O氷にはOH基しか存在しないため、OH伸縮振動は周囲のOH基と相互作用する 。この振動カップリングは、氷表面上での化学反応で生じた余剰エネルギーの散逸機構を理解する上で重要である。そこで、H2O氷表面における振動カップリングをHD-SFGを用いて研究し、HDOの結果と比較した。H2O分子の水素結合O-H伸縮振動領域におけるHD-SFGスペクトルは、HDO氷と比較して、複数のピークが存在し、またスペクトル幅が広くなっている。これは、OH基間の振動カップリングがSFGスペクトルに大きな影響を与えていることを示唆している。また温度依存性をバルクH2O氷のスペクトルと比較したところ、表面だけ特異的な挙動を示すバンドが存在することが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、HDO氷結晶表面における構造緩和によって生じた表面数層の水分子間の水素結合の様子をヘテロダイン検出和周波発生分光により明らかにした。その結果、表面近傍で分子配向に応じて水素結合長が異なるなど詳細な情報を得ることができた。この結果はPhysical Review誌に掲載された。また、H2O氷結晶表面にもこの方法を適用した。H2O氷結晶の場合は振動モード間の結合があるため、バンドの帰属が難しく、現在これについて考察を進め、論文として取り纏めるところまできている。
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Strategy for Future Research Activity |
氷表面の触媒反応のメカニズムを調べるために、まず結晶氷表面の構造と振動カップリングについての研究を本年度行った。ヘテロダイン検出和周波発生分光がこれらの調査に有用であることが本年度の研究で示された。今後はこの手法を氷表面上に分子を吸着させた系に適用し、吸着種の構造・分子配向や、分子吸着による氷表面の構造変化などについて、研究を進め、氷表面の触媒メカニズムについて微視的な情報を得る。
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Research Products
(4 results)