2017 Fiscal Year Annual Research Report
クリノスタットを用いた微小重力環境下における農産物中の機能性成分の評価
Project/Area Number |
17J08363
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中島 周作 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
|
Keywords | 微小重力 / クリノスタット / 機能性成分 / デンプン / テラヘルツ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,植物工場のような環境制御下での食料生産において効率的・安定的な高機能農産物の生産を目指し,新たな栽培方法と測定方法の開発に取り組んでいる.過去に微小重力環境の宇宙で植物を栽培すると機能性が向上することが報告されている.そこで植物を回転させ擬似的に微小重力環境を作り出すクリノスタットを用いることで,宇宙実験と同様に農産物の機能性が向上するかを調べている.さらに植物内に蓄積したデンプンは生長のためのエネルギー源であり,様々な機能性成分を合成する材料となる重要な分子である.そのため,種子や発芽植物のデンプン量は,生長後の品質を予測するための指標になると考えられているが,既存の測定法では栽培植物のデンプン量をセンシングすることは困難である.そこで,新たなデンプン評価技術の開発として分子間振動モードが観察されるテラヘルツ分光法を用いて植物中のデンプンの定量評価を進めている. 豆科植物の緑豆をクリノスタットで栽培すると静置状態で栽培したコントロールと比較して,抗酸化作用が向上することが明らかになった.従って,クリノスタットが高機能農産物を生産するための新たな栽培装置となる可能性が示された.また,テラヘルツ分光法で緑豆を測定すると,デンプンに由来するピークが確認された.さらにピーク強度と化学分析で定量したデンプン量で検量線を作成すると高い相関係数が得られたことから,テラヘルツ分光が迅速で簡便なデンプン評価法として活用できる可能性が示された.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
クリノスタットの研究では,緑豆をサンプルとして2 rpmで回転させながら栽培した.またコントロールは静置状態に置いた.栽培後,抗酸化作用を測定する試薬として知られるDPPH(2,2-ジフェニル-1-ピクリルヒドラジル)とABTS(2,2-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)を用いて抗酸化作用を評価した.クリノスタットで栽培した緑豆はコントロールよりもDPPHとABTS分解量が有意に増加したため,抗酸化作用が向上することが明らかになった.一方で,抗酸化作用が向上するメカニズムを解明するまでには至らず,今後の課題として残った. また,テラヘルツ分光法を用いてデンプン分解過程がモニタリングできるかを検討するため,デンプン標準品と凍結乾燥した発芽後2, 5, 8日の緑豆をペレットにして透過測定を行った.デンプン標準品では9.1, 10.5, 12.2, 13.1 THzにブロードなピークが見られた.また,発芽2日目の緑豆はデンプン標準品と同様なスペクトルを示し,9.1, 10.5, 12.2, 13.1 THzにピークが見られた.しかし,発芽5, 8日目ではピークが徐々に消えていった.この結果はTHz分光法を用いることで,多くの夾雑物を含む植物であってもデンプン分解をモニタリングできることを示唆している.さらに,アミラーゼを用いて緑豆サンプルのデンプンを加水分解すると9.1と10.5 THzのピークがなくなることが明らかになったため,これらの2つのピークはデンプン分解をモニタリングするのに適したピークと言える.そこで,ピークの二次微分値と化学分析で定量したデンプン量で検量線を作成した.9.1 THzのピークではr2 = 0.97と高い相関係数が得られたことから,テラヘルツ分光法が迅速で簡便なデンプン評価法として活用できる可能性が示された.
|
Strategy for Future Research Activity |
これまで得られた結果をもとに,クリノスタットが農産物の機能性に与える影響をより詳細に調べていき,同装置の農学分野での有用性を見出していく.まず,昨年度の研究で課題として残ったクリノスタットにより抗酸化作用が向上する要因の解明を目指していく.そこで,酵素であるアミラーゼの活性とデンプン分解量に注目した.緑豆などの豆科植物では発芽直後,種子に蓄えられたデンプンがアミラーゼによって分解され生長や生体物質の合成のためにエネルギーとして利用される.仮に,クリノスタットによる回転の刺激でアミラーゼが活性化させデンプン分解が促進されていれば,抗酸化物質合成量が増加し抗酸化作用が向上する可能性が考えられる.そこで,クリノスタットで栽培した緑豆のアミラーゼ活性とデンプン量を計測していく.また,抗酸化作用が最も向上するクリノスタットの条件を検討するため,回転速度と回転方向を変え,最適な栽培環境を明らかにしていく.さらに,他の農産物に対してもクリノスタットを用いた栽培が有効であるかを検討するために,リーフレタスとトマトを栽培し抗酸化作用を計測していく予定である. テラヘルツ波を用いた研究では,まず別の農産物でも同様にデンプンの簡易計測が可能であるかを明らかにしていく.さらに,非破壊でのデンプン計測を目指していくが、テラヘルツ波は水の吸収が極めて大きく野菜や果実などを測定すると水の影響でデンプンの吸収ピークが観察できなくなる.従って,穀物や種子など水分量が低い農産物に限定されるが,テラヘルツ分光法により非破壊でのデンプン計測の可能性が期待される.そこで,コメやマメなどを対象として非破壊でのデンプン計測を進めていく.
|
Research Products
(2 results)