2018 Fiscal Year Annual Research Report
土石流の侵食・堆積に微細土砂の液相化が及ぼす影響の解明と数値計算への適用
Project/Area Number |
17J08424
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
酒井 佑一 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 土石流 / 混合粒径 / 微細土砂 / 液相化 / 間隙水圧 / 流動機構 / 侵食・堆積 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、土石流の流動抵抗と侵食・堆積に対して、微細土砂の液相化が与える影響を明らかにする。今年度は、土石流の定常状態における流れの遷移と、堆積機構に関する水路実験を行った。また、実験成果に基づいて、微細土砂の挙動を考慮した土石流の数値計算モデルの構築を行った。 まず、定常状態における均一粒径土石流の水路実験を行い、土石流の間隙水圧を測定することで流れの遷移機構について検討を行った。その結果、土石流に対して定義したレイノルズ数を用いると、間隙水圧が静水圧(層流)から全圧(乱流)への流れの変化が整理できることが明らかになった。また、下層が層流、上層が乱流状の流れからなる二層モデルを適用し、そのインターフェースの厚さを限界レイノルズ数により定義すると、層流状態から乱流状態までの幅広い流れを統一的に説明することができるようになった。 次に、微細土砂からなる均一粒径土石流の堆積実験を行った。その結果、堆積の最初の段階では漸次的な堆積が生じるが、堆砂域の上流に跳水が生じた後は大規模な堆積が生じ、堆積形状を上流側に発達させながら遡上する現象が見られた。ここでの河床波のメカニズムは十分には明らかになっておらず、今後の重要な課題である。 また、これまでの実験成果に基づき、流動条件に応じた微細土砂の挙動の変化を考慮した土石流の数値計算モデルを構築した。モデルの感度分析として、土石流の侵食過程に関する数値実験を行い、既往のモデルとの比較を行った。その結果、従来のモデルでは微細土砂が常に液相として振る舞うため、特に急勾配領域では侵食が急激に進んで大きいピーク流量を示す一方、新たに構築したモデルでは、微細土砂が全て液相として振る舞うとは限らず、比較的小さいピーク流量を示した。このことは微細土砂の挙動の扱い方によって、特に高い勾配ほど土石流ハイドログラフの予測に大きな違いが生じることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の理論的核となる、均一粒径からなる土石流の間隙水圧についての実験的検討により、層流状態から乱流状態までの幅広い流れを統一的に説明することができるようになった。また、均一粒径の微細土砂からなる土石流の堆積過程の実験では、微細土砂からなる土石流の堆積が従来の堆積速度式では表現できないような急激な堆積が生じ、上流へ遡上する河床波が確認された。これは、メカニズムが十分に明らかになっていない現象であり、今後解決が必要な課題が浮かび上がったといえる。一方、これまでの実験成果に基づき、微細土砂の挙動を考慮した土石流の数値計算モデルを構築した。これにより、土石流の侵食過程に微細土砂の挙動を考慮した評価が可能となった。実験によるメカニズムの検証と、その数値計算モデルへの実装化が進んでおり、研究課題の遂行はおおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画通り、微細土砂を含む土石流の侵食・堆積過程に関する水路実験と間隙水圧測定を引き続き行い、今年度構築した数値計算モデルとの比較を行う。実験との比較を通して新たに判明したメカニズムは順次モデルに実装し、モデルを完成させる。その上で、現地で発生した土石流の災害事例に適用し、再現性を確認する。
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