2017 Fiscal Year Annual Research Report
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17J08430
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
久永 哲也 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 性分化 / 遺伝子発現制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年雌雄異株の維管束植物において胞子体世代における性決定因子が同定されている。一方で配偶体世代優占のコケ植物において配偶体の雌雄分化を制御する機構は未解明である。私は配偶体世代優占でかつ雌雄異株のコケ植物であるゼニゴケをモデルに用いることでこの問題の解決を試みた。申請時点では、MYB型転写因子をコードするMpFGMYBがゼニゴケ雌性生殖器官特異的に発現し、メス株におけるMpfgmyb機能欠損がメスからオスへの性転換を引き起こす、ということを明らかにしていた。 今年度はMpfgmyb変異体の詳細な表現型観察を行い、Mpfgmyb変異体のメス株がほぼ完全にオス化していることを明らかにした。さらにMpfgmyb変異体の相補実験から、MpFGMYBの発現制御に重要な配列がコード領域3’側に存在することを見出した。さらに京都大学河内研究室との共同研究により、MpFGMYB遺伝子座の逆鎖側ノンコーディングRNAが、オスにおけるMpFGMYBの発現抑制に機能することを見出した。これらの結果からMpFGMYB遺伝子座がゼニゴケの雌雄分化において切り替えスイッチのように機能することが明らかとなった。現在これらの結果をまとめた論文を準備しており、次年度中の早期に発表する予定である。 また、ゼニゴケ属内での性分化制御機構の変遷を理解する目的で、雌雄同種のゼニゴケ属植物であるアカゼニゴケを、広島大学の嶋村博士の協力のもと野外から単離し、分子生物学実験の材料として用いるための試みを開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
Mpfgmyb変異体に形成される雄器床内部の詳細な観察から、この変異体のメス株において、野生型オス株とほぼ同様の精子が形成されることを明らかにした。また性特異的に発現する遺伝子群の発現解析から、Mpfgmyb変異体のメスは遺伝子発現のレベルにおいてもオス化していることが示された。しかしながら一方で、これらの変異体精子の遊泳能を観察したところ、変異体精子は運動能を欠くということが明らかとなった。広島大学の嶋村博士との共同研究により、野生型の鞭毛軸糸にみられる9+2構造が、変異体精子では正しく形成されていないことが明らかとなった。以上の結果からMpfgmyb機能欠損によりほぼ完全なオス化が起こるが、機能的な精子形成のためにはY染色体上の因子が必要であることが示唆された。 また、MpFGMYBの発現制御機構について興味深い結果が得られた。京都大学河内研究室との共同研究により、ゼニゴケオス株においてMpFGMYB遺伝子座の逆鎖側が転写されていることが見出された。保存されたORFが確認されないことから、この逆鎖側の転写産物はノンコーディングRNAであると考えられる。逆鎖側ノンコーディングRNA(SUFと命名)の機能を解析するために、SUFの転写開始点近傍1kbを欠損させた変異体が河内研究室において作出された。suf変異体のオス株はMpFGMYBの発現が上昇すると同時に、メスへと性転換した。これらの結果から、オス株においてMpFGMYBの発現がSUFにより抑制されていることが明らかとなった。 以上のように、本年度は当初の目的の一つである、「MpFGMYB発現制御機構の解明」を京都大学河内研究室との共同研究により達成することができており、したがって本研究は当初の計画以上に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
過去の知見からゼニゴケはドミナントに機能するメス化因子をX染色体上にもつと考えられている。このメス化因子はSUFの発現をメスにおいて抑制すると考えられる。したがって、今後はSUFの発現を制御する因子を順遺伝学的スクリーニングにより探索すると同時に、X染色体上にコードされる遺伝子群の網羅的機能解析を行う。これらの解析を通じてメス化因子の単離を試みる。 また、MpFGMYBはMYB型転写因子をコードしているので、直接の下流因子を明らかにすることにより、MpFGMYBがどのようにメス化を促進するのかを明らかにする。現在MpFGMYBの誘導過剰発現やタグ付きのMpFGMYBを自身のプロモーター制御下で発現させるコンストラクトを作成している。これらのコンストラクトを導入した形質転換体を用いて、RNA-seq解析やChIP-seq解析などを行う。 MpFGMYBの時空間的発現パターンについては、現在までに転写レポーターラインを用いて解析してきたが、これらのラインはオスでも発現が見られるために、本来の発現パターンを反映していないと考えられる。そこで今後は、In suitu hybridization法やMpFGMYB-Citrine融合タンパク質の観察などを通じてMpFGMYBの発現パターンを明らかにする。 雌雄異株のゼニゴケにおいて見出した雌性分化因子FGMYBの相同遺伝子が雌雄同株のアカゼニゴケにおいても雌性分化に機能しているのか、またその発現制御機構についても検証を行う。
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Research Products
(6 results)