2018 Fiscal Year Annual Research Report
腸内細菌代謝物を介した腸内細菌と宿主の共生~腸脳相関への展開と応用~
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17J08530
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
後藤 愛那 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2021-03-31
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Keywords | 腸内細菌 / アルツハイマー病 / アミロイドベータ / 腸脳相関 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、腸内細菌から宿主に受け渡される物質(主に細菌代謝物を想定)から、宿主の脳の発達や維持に関わる共生因子を探索し、その作用機所を解明することを目的とした。それにより、腸内細菌を介した「腸脳相関」を理解するとともに、疾病治療や診断といった応用を目指すものである。 《Aβ凝集調節因子の探索》アルツハイマー病の原因タンパク質であるAβタンパク質の凝集を制御する機能性物質を探索した。Aβ凝集はモノマー、オリゴマー、凝集体(シート構造)と段階を経るものであるため、複数の方法で多角的に評価すべきであるという結論に至った。そのため、本年度は、遠沈法、HPLC分析による評価を導入し、スクリーニングを続けた。遠沈法では、遠心分離により凝集Aβを沈殿画分、非凝集Aβを上清画分として分離し、重合したAβオリゴマーの〝重合分子サイズ″を特に評価するものである。さらに、上清画分をHPLCにより分析することで〝Aβモノマー″に絞った定量も行った。さらに、Thioflavinを用いたin vitroのスクリーニング系では、シート構造をとった凝集Aβを特異的に検出することができる。これら3つの方法を組み合わせることで、より厳密に候補サンプルの選定を行うとともに、候補サンプルが凝集過程のどの段階に効果があるか、という点についてまで予測を行うことが可能となった。 一方、腸内には、ヒト自身が摂取した食物由来の成分に加え、それらを腸内細菌が代謝して産生される物質が多量に存在する。それらの中には、腸脳相関における機能が注目されていない物質が含まれると考えられ、また、物質自体が未発見(未同定)である可能性も高い。そのため、糞便中物質から、Aβ凝集調節機能をもつ物質を網羅的にターゲットとするアプローチ方法も必要である。そのため、本年度はマウスおよびヒトの糞便の抽出物についても、同様のスクリーニングを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
《Aβ凝集調節因子の探索》 アルツハイマー病の原因タンパク質であるAβタンパク質の凝集を制御する機能性物質を遠沈法、Thioflavinアッセイ、HPLC分析の3方法により、多角的にスクリーニングを実施した。標品が入手可能な物質におけるスクリーニングにより、複数の候補化合物が見出された。これらはいずれもヒトから腸管内に分泌され、腸内細菌による代謝・変換を受ける物質である。また、血中や脳にも存在することが示されていることから、実際の生体内においても機能を持つ可能性が高いと考えられる。一方、マウス糞便抽出物についても同様の方法で分析を行った。その結果、マウスの飼育条件(主に餌の組成)により、糞便抽出物のAβ凝集調節機能が変化することを見出した。これは、食生活とそれに伴う腸内環境の変化により、腸内で生産されるAβ凝集調節物質の量あるいは機能が変化することを示唆するものであり、たいへん興味深い。さらに、ヒト糞便抽出物についても評価を行った。こちらについても、個体によりAβ凝集調節機能に大きな差があることが見出された。 《その他》腸内細菌叢の調節が、本研究で注目するアルツハイマー病を含む神経変性疾患と密接に関わるという報告が増えていることより、プロバイオティクスであるビフィズス菌による調節についても注目した。 特に昨年度は、乳児腸管に形成されるビフィズスフローラが、ビフィズス菌のなかでも少数派の種であるBifidobacterium bifidumによるヒトミルクオリゴ糖分解物のクロスフィーディングに起因する可能性を明らかにした。この〝少数派細菌の腸内細菌叢あるいは宿主への起用の可能性″については、神経変性疾患との関りを考える上でも、非常に重要なファクターとして、今後も検討していく。
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Strategy for Future Research Activity |
《共生因子の同定》 マウスおよびヒト糞便からは、機能物質の単離精製を進め、構造を決定する。機器分析は、必要に応じて共同研究とする。血中および脳への取り込みと蓄積効率を検討する。 《共生因子の生合成経路の解明》 標品の候補化合物の一部については、腸内細菌による代謝経路がすでに明らかにされているため、in vitroにおける培養実験あるいは精製酵素を用いた実験から、その変換を確かめる。一方、代謝経路が明らかになっていないものについては、ゲノム配列上からの予測に加え、実際に変換活性を持つ腸内細菌の探索も行っていく予定である。 マウスについては、現在行っている高脂肪食給餌条件に加え、他の飼育条件についても同様に検討する意義があると考えられる。 ヒトについては、糞便回収の際に、個人の年齢、体系、食生活などについてのアンケートを行っているため、今後n数を増やしていくことで、それらとの相関を検討できるようになると考えられる。また、ヒト糞便については、同時に16S rDNAのメタゲノム解析も行っているため、Aβ凝集調節機能に関わる菌の選定へとつなげたい。 特に、マウスとヒトともに、16SrDNAメタゲノム解析から腸内細菌叢の解析を行い、その結果と照らし合わせることにより、関りが深い菌種の探索を行っていく予定である。
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Research Products
(3 results)