2018 Fiscal Year Annual Research Report
ピリジン類のカチオンリレーを利用した官能基選択的合成反応の開発
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17J08551
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Research Institution | Gifu Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
川尻 貴大 岐阜薬科大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | アセタール / ピリジニウム塩 / 求核付加反応 / 化学選択性 |
Outline of Annual Research Achievements |
アセタールはアルデヒドの求電子活性を抑えた保護体であるため、アルデヒドと比較して求核種との反応性が低く、アルデヒド存在下アセタール選択的に求核種を導入することは困難である。私は、アセタールとシリルトリフラート、ピリジン誘導体から生成するピリジニウム塩中間体の求電子性に着目し、様々な炭素系求核種との反応性を精査した。これまでの研究により、脂肪族アルデヒドから調製されるピリジニウム塩中間体は活性が低く、求核付加反応は進行しないことを見出している(Chem. Commun., 2018, 54, 374-377.)。この知見を応用して、脂肪族アルデヒド共存下、アセタール選択的に進行する官能基変換反応として確立した。アセタールと脂肪族アルデヒドの混合物にシリルトリフラートと2,2’-bipyridylを加えてピリジニウム塩中間体を調製後、シリルエノラートやアレーン、アリルシランなどの求核種を順次添加すると、アセタールに由来するピリジニウム塩中間体だけが選択的に求核種と反応し、それぞれ対応するベンジルエーテル誘導体が収率良く得られた。一方、脂肪族アルデヒドに由来する塩中間体はいずれの求核種とも反応せず、水処理後に原料として回収することができた。ピリジニウム塩中間体を介した求核種との反応おけるアセタールの適用範囲は広く、イソクロマンやチオフェンを母核とするアセタールにも利用できる。この反応はアセタールを脱保護することなく直接化学変換できるため、ステップエコノミーに優れており目的化合物の効率的な合成に活用できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度の研究実施計画に従って、「脂肪族アルデヒド存在下アセタール選択的に進行する向山アルドール反応の開発研究」を推進した。反応条件のスクリーニングや基質適用範囲の精査を完了し、アセタール選択的に進行する向山アルドール反応として確立できた。さらに、向山アルドール反応だけでなく、フリーデル・クラフツ反応や細見・櫻井反応など、他の求核種にも適用し、アセタールへの一般性ある求核種導入反応として開発した。これらの研究成果は、学会、シンポジウム(国際学会2件、国内学会1件)および国際学術誌(J. Org. Chem., 2019, 84, 3853-3870.)にて公表した。 また、「アセタールの脱離を鍵とした多置換ナフトール誘導体の合成研究」にも取り組み、国際学術誌に発表した(Heterocycles, DOI: 10.3987/COM-18-S(F)50)。この反応の成績体であるホルミルナフトール類は芳香族アルデヒドであるため、ピリジン類のカチオンリレーを介した官能基選択的変換反応のビルディングブロックとしての利用も期待できる。 平成30年8月27日~10月27日の2ヶ月間、米国スクリプス研究所(Ryan A. Shenvi教授)に留学し、生物活性を示すアルカロイドの短工程合成研究に取り組んだ。さらなる反応収率の改善や機器分析による立体構造の詳細な解析が必要であるものの、新規Photoredoxカップリングを含む6工程で目的の鍵中間体を合成し、その構造や安定性を明らかにした。研究内容は大学院生やポスドク研究員に引き継がれており、近く国際学術誌に発表される予定である。ここで得られた知見を、自身の研究テーマであるカチオンリレーを利用した新規反応開発へと展開し、さらなる発展を目指す所存である。
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Strategy for Future Research Activity |
[1]芳香環転位を伴うホモアリルアルコール合成反応の開発 ピリジニウム中間体を経由する求核種導入反応研究の過程で、3-フェニルアリルシラン類を求核種として反応すると、求核種由来のフェニル基が転位した予期せぬ化合物が生成することを見出した。芳香環転位反応のメカニズムを解明するため、シリルトリフラートやピリジン誘導体などの添加比率を変更し、これらの試薬が反応効率に与える影響を精査する。また、収率向上を目的として、反応時間や様々な溶媒の効果を確認する。 [2]アミド由来ピリジニウム塩を鍵中間体とする官能基選択的求核種導入反応の開発 アミドは、比較的安定な官能基であり、他の官能基を維持したまま選択的に変換することは困難である。アミドは無水トリフラートとピリジン類が反応してピリジニウム塩中間体に変換されることが知られており、その特異な反応性を利用した化学変換反応が精力的に研究されている(N. Maulide et al., Chem. Soc. Rev. 2018, 47, 7899-7925.など)。私はピリジニウム塩を鍵中間体とした反応開発の一環として、アミド由来のピリジニウム塩に着目し、新たな化学変換反応の開発を目指す。現時点で、このピリジニウム塩中間体と電子豊富なアレーンによるフリーデル・クラフツ型の反応が進行することを確認している。今後、ピリジン環上の置換基効果を精査し、ピリジニウム塩中間体の求電子性との関連を解明する。また、他の官能基が同一分子内に共存する化合物や、医薬品・天然物などの複雑な分子を基質として検討し、一般性ある反応として確立する。最終的にピリジン部のカチオンリレーを介した骨格変換法への応用を視野に入れ、申請研究の発展を目指す。
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Research Products
(6 results)