2017 Fiscal Year Annual Research Report
希少疾患セッケル症候群特異的iPS細胞を用いた病態解明
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17J08574
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
市島 ホセ 京都大学, 医学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 小頭症 / 脳オルガノイド |
Outline of Annual Research Achievements |
神経発達障害であるセッケル症候群(Seckel syndrome: SS)の病態解明を目指し、本研究を開始した。SSは重度の小頭症、脳回形成異常、低身長などの症候を呈する先天性疾患である。小頭症の原因は脳を構成する神経細胞になる神経前駆細胞集団の枯渇によるところが大きいとされる。SSの原因遺伝子として最初に同定されたATR遺伝子変異を有する患者(ATR-SS)の細胞を本研究で用いる。ATR遺伝子は複製ストレスを調節するキナーゼとして広く知られている。しかし既知の機能だけでは神経特異的な症候を引き起こす理由を十分に説明できない。 本研究でATRに神経特異的な機能の存在を考慮しながら、SSの病態解析を介してATR遺伝子変異が神経前駆細胞へ及ぼす影響を調べる。具体的にはATR-SS患者由来iPS細胞を樹立し、さらにゲノム編集技術をもちいて遺伝子修復株を作製する。病態を再現するために脳オルガノイド形成法を採用する。患者株と遺伝子修復株の脳オルガノイドを作製し、その内部構造を比較し、小頭症に繋がりうる表現型を探す。皮質形成期におけるATRの新規機能を推測する。 また本研究で用いているATR遺伝子変異に見られるスプライシング異常の機構解明を目指す。iPS細胞、神経前駆細胞といった細胞種ごとにおけるスプライシングパターンを比べ、そのパターンの差異を生み出すスプライシング因子の探索を実施する。特定したスプライシング因子のATR転写物への結合能を確認し、他のスプライシングイベントに与える影響をトランスクリプトーム解析で網羅的に確認する。 本研究により、ATRの新規機能が明らかになり、疾患解析モデルを用いて小頭症の発症メカニズムの解明に繋がると考えられる。また細胞種特異的スプライシング機構が明らかになることで神経分化段階でのスプライシング因子の転写物調節に関する知見を広げる可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度の初めよりセッケル症候群の病態再現に進展が見られた。大脳皮質形成期の再現を効率よく実現できる脳オルガノイド技術の取得に成功した。疾患株と遺伝子修復株を用いてオルガノイド内部の神経前駆細胞の障害を確認した。この結果を基にATR遺伝子の神経分化過程における新規機能の推測することが可能である。またATR遺伝子変異で見られる細胞種特異的スプライシングパターンのメカニズム解明をすべく、RNA結合タンパク質の結合モチーフのデータベースに着目した。ATR遺伝子変異が導入されることで引き起こされる結合モチーフの変動を調べた。結合モチーフが変動したRNA結合タンパク質の発現制御実験を実施中である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの実験結果を踏まえて、霊長類特有で大脳皮質の拡大に大きく寄与しているouter radial glial cells (oRGCs)を脳オルガノイドで観察できることから、oRGCsの挙動を評価し、SSにおけるoRGCsの障害の有無を確認する。さらにATRの神経特異的な病態メカニズムを解明すべく、網羅的解析を用いてATRタンパク質の新規標的探索を行う予定である。ATR遺伝子変異が誘発するスプライシング異常の機構を解明すべく候補因子を絞り込んでいる最中である。発現制御実験をもちいて、ATRのスプライシングへの影響を確認する。さらに候補因子のATR転写物への直接的な結合をCLIP解析で調べる。
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