2018 Fiscal Year Annual Research Report
近世スコラ哲学における存在論の生成史との比較に基づくデカルト形而上学の体系的研究
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17J08686
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
今井 悠介 慶應義塾大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | デカルト / クラウベルク / 形而上学 / 存在論 / 近世スコラ哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
「存在論」との比較によって近世形而上学の構造改革、およびその系譜におけるデカルト哲学の特性を明らかにすることを目的とする本研究であるが、本年度の成果は以下の通りである。 1) デカルト形而上学と存在論の体系比較のための基礎的作業として、「存在-神-論」というハイデガー由来の解釈枠組の検討を行った。その結果、ハイデガーの内部でも「存在-神-論」概念は時期により変遷があり多義的であることが明らかになった。その意味は「自己原因」、「哲学に神が入ってくること」、「存在論と神学の二重的基礎付け関係」に大きく分けられる。また、「存在-神-論」解釈を用いる論者の解釈を整理した。それぞれの解釈の利点を総合すれば近世形而上学のテキスト解釈において「存在-神-論」概念は有益であるという結論が得られた。 2) 第一原理としての矛盾律の扱いを、スアレス、デカルト、クラウベルクの哲学でそれぞれ検討した。その結果、三者とも矛盾律にやや否定的な評価を下しているが、その理由は各々異なり、それが体系構成の差異に結びついていることが明らかになった。また、スアレス-クラウベルクが形而上学の体系として類似した系統に属することを確証し、デカルトがそうした体系とは異なる体系を取っており、そしてそれは第一原理の規定と関係があることを明らかにした。 3) 17世紀末以降の存在論の系譜であるヴォルフ、バウムガルテンの哲学と存在論、およびデカルト主義の関係についての研究を行った。昨年度の研究によって、クラウベルクの「存在論」的哲学にはデカルト主義の影響が従来想定されていたよりも小さいこと、また従来想定されていたのと異なる部分において(明晰判明性、具体例の重視など)影響が表れていることを明らかにしたが、ヴォルフ、バウムガルテンではクラウベルクより明確にデカルト主義が取り込まれていること、またその取り込まれた箇所の一部を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初はクラウベルクのカテゴリー論のソースとしてArtdorf学派のカテゴリー論を検討する予定であり、一部着手はしたのであるが、「存在論」の形成に直接寄与したという印象が得られなかったため、一旦中止し、それよりも「存在論」やデカルト形而上学内部の内在的研究の方を重視した。計画の変更はあったが「存在-神-論」概念の検討、スアレスから存在論へ至る矛盾律を鍵とした第一原理をめぐる体系構成の差異の研究など、存在論の系譜の研究、およびデカルトの形而上学体系の解釈は順調に進んでいる。以上から、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である来年度は、引き続き「存在論」的形而上学の体系構成とデカルト形而上学の体系構成との差異の分析を行うことで、デカルト形而上学の特質を明らかにすることを試みる。また、そのことによって近世形而上学の系譜の中にデカルトの形而上学を位置付けることを試みる。今年度までの研究の進展によってクラウベルクの中にあるデカルト主義の要素と「存在論」的要素を区別することが可能になり、また両体系の最も対立する点が明らかになったので、来年度はこの分析を元にデカルトの体系を改めて中心的に検討する。特に、際立って異なる体系を構成することになった核の部分、その動機、および本質的構造を明らかにすることを目指す。また、並行して、デカルト・クラウベルクの差異の分析を元に視点を広げ、より幅広い両者の前後の時代の形而上学の体系を分析することによって、形而上学の系譜における両者の位置を明確にすることを試みたい。
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Research Products
(2 results)