2017 Fiscal Year Annual Research Report
III-V族半導体フォトニック結晶導波路における共伝搬・逆伝搬スローライト系
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17J08770
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
近藤 圭祐 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 半導体光デバイス / フォトニック結晶 / スローライト / 非線形工学 / 面発光レーザー / 光偏向器 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではこのフォトニック結晶導波路 (PCW) をIII-V族半導体を用いて製作し、さらなる非線形増大と光制御の性能向上を目指した。 本年度は、III-V族半導体PCWの製作の他に、昨年度まで研究していたCMOSシリコンPCWを用いた共伝搬・逆伝搬スローライト系において新たな進展があったので、そちらも並行して研究を進めた。まず、二光子吸収フォトダイオードをPCW上にアレイ集積した構造から成る逆伝搬系オンチップ光相関計を製作し、その動作を実証した。同様の光相関計にリブ導波路を適用したデバイスでは広帯域化と高分解能化に成功し、さらには感度と測定精度も良好であり、世界初のオンチップ光相関計の実用化が見込まれる。次に、pnダイオード付きPCWにより自由キャリアを制御することで、共伝搬系の断熱的波長変換の長波長シフトを実証した。断熱的波長変換の長波長シフトの実証は世界初であり、これにより断熱的波長変換の制御自由度が格段に広がると期待される。さらに、PCWの上部クラッドの表面に光放射用の回折格子を形成したビーム偏向器を研究した。これはスローライト効果によりビーム偏向範囲を容易に拡大できる特長をもち、近年盛んに研究されているレーザーレーダーにとって非常に有用なデバイスになり得る。製作したデバイスで、非機械式ビーム偏向器としては高いビーム角度解像度100を確認した。以上の研究成果に関して、私の筆頭著者論文が4編掲載され、国際会議で3件の口頭発表を行った。 III-V族半導体PCWは製作難度が高く、現在はまだ製作上の課題が多い。一方、受入れ研究室の小山研究室で研究されてきた面発光レーザー (VCSEL) と同様の多層膜構造で形成した導波路もスローライトを生成できる。こちらは製作が容易で、共伝搬・逆伝搬スローライト系の実験に用いるのにも都合がよい.よって現在はこれも製作している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
III-V族半導体PCWは製作難度が高いため製作上の課題が多く、現在はプロセスを詰めている段階である。一方、小山研究室で研究されてきたVCSEL と同様の多層膜構造で形成した導波路もスローライトを生成でき、その生成原理も基本的にPCWと同じである。また、VCSELと同じ構造であることからわかるように、この導波路はアクティブデバイスとして動作し、スローライトパルスを増幅できる。つまり、非線形スローライトチューニングをより増大できる。現在はこれを製作しており、また、光パルス生成に必要な実験系を構築している。 ところで、この多層膜型スローライト導波路は、光を伝搬させながら徐々に外部へ放射させるようにすると、非常に鋭いビームを放射するレーザーデバイスとなる。このとき、導波路への入力光波長を変えるとビームの放射方向が変わるので、入力波長を掃引することでビーム偏向器として動作する。スローライトは波長分散が大きく、わずかな入力波長変化で偏向角度を大きく振れる。このようにスローライトの特長を生かすことにより、高解像度の非機械式ビーム偏向器を実現できる。これは、自動運転支援技術や顔認証セキュリティセンサなどへの応用に向けて世界中で盛んに研究されているレーザーレーダーにとって非常に有用なデバイスになり、完成した時のインパクトは大変大きいと考えられる。本研究ではこのスローライト偏向器をアレイ化し、そこにコリメートレンズを組み合わせることで、2次元的なビーム偏向を実証した。また、初期実験でありながら270×7という高い角度解像度を得た。今後、このデバイスと光パルス到来時刻検出機能付きのCMOSイメージセンサを組み合わせて、レーザーレーダーとしての動作実証を試行する予定である。 以上の成果より、本年度の研究は期待どおりに進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、AlGaAsのPCWの製作を進める。PCWには直径約200nmの孔を空ける必要があるので、AlGaAsを高いアスペクト比でエッチングするためのプロセス条件を詰める。次に、Al組成比を高くしたAlGaAsクラッド層を選択酸化させて酸化アルミニウムにし、これを選択エッチングすることで、エアブリッジ型のAlGaAsのPCWを作成する。このような構造は製作難度が少し高くなるが、PCWの群屈折率を高める上で有用である。次に製作デバイスを用いてスローライトチューニングを実験する。まずは、断熱的波長変換の短波長シフト、信号遅延の高速制御、光パルス圧縮の効果増大を確かめる。また同時に、製作したPCWの非線形係数を評価する。 上記のPCWとは別に、VCSELと同じ多層膜型構造のスローライト導波路を用いて、共伝搬・逆伝搬系の非線形光制御の実験を進める。この構造は本研究室において多くの実績があり、実際に、昨年度までに製作することができており、現在は構造最適化を進めている。本デバイスもPCWと同様にスローライトを生成できるので、共伝搬・逆伝搬スローライト系の実験に利用可能である。このデバイスにおいてはまず、非線形係数を実験によって評価する。その後、断熱的波長変換と超高速遅延チューニングの実証を目指す。 また、この多層膜スローライト導波路を用いた非機械式光偏向器の研究も引き続き進める。実用化に向けて、さらなる高解像度化とハイパワー化を図る。具体的には解像度1000×16、パルスピークパワー10Wを目指す。さらに、このデバイスと光パルス到来時刻検出機能付きのCMOSイメージセンサを組み合わせて、3次元距離画像を取得するレーザーレーダーとしての動作実証を試行する。
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