2017 Fiscal Year Annual Research Report
Investigation of Accretion Process around Compact Objects with Multi-wavelengths Observations and Numerical Simulations
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17J08772
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
木邑 真理子 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 降着円盤 / 白色矮星 / ブラックホール / 多波長解析 / ベイス推定 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、主に以下の4つの課題に取り組んだ。(1) 激変星の進化の最終段階であるWZ Sge型矮新星の性質を、そのアウトバースト中の可視光度曲線の時系列解析から調べ、その結果、主星に対する伴星の質量比が小さい天体特有の性質(降着円盤が大きくなりやすい、円盤が伴星の潮汐効果を受けやすいなど)が関わっていることを示唆した。(2) ブラックホールX線新星V404 Cygのアウトバースト中の多波長時系列解析から、その短時間変動の原因を探り、自分の以前の主著論文同様、この天体の可視光の短時間変動にはX線照射の影響が大きいことを確かめた。この課題では、統計学者の共同研究者と一緒に、多波長時系列解析の新手法の開発も同時に行なった。(3) 頻度の少ない、小さめのアウトバーストを起こす矮新星の性質を、スペクトル解析や軌道運動の位相プロファイルのモデル化で調べ、これらの天体特有の現象が起こるメカニズムを円盤不安定性の枠組みで説明した。解析した天体のうちの一つについては、今まであまり気づかれていなかった、他の種類の激変星(新星や超軟X線源)との関わりも示唆することができた。(4) ブラックホールX線新星XTE J1859+226の多波長分光スペクトル解析から、降着円盤の内側と外側の放射の関わりを調べ、アウトバースト後半の現象が標準的なX線照射では説明出来ないことを示した。この研究は、海外挑戦プログラムで派遣されたイギリスのダラム大学での研究であり、現在も進行中である。 (1)、(2)については、成果を査読論文として発表済みであり、学会発表も行なっている。(3)については、成果をまとめた論文を投稿中である。また、この研究を元に、二つの観測提案書を書いた。(4)については、平成29年度中には解析をまとめることに力を注いだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
私の所属する研究グループでは、爆発のタイミングが正確に読めないアウトバーストを起こす天体の観測、解析を行なっているため、予定通りに行かないこともあったが、予定外の大きな成果も得ることができた。予定外のテーマに取り組んだため、数値計算のコードを組むことが遅れてしまっているが、WZ Sge型矮新星にとどまらず幅広い天体(ブラックホールX線新星や普通の矮新星など)をターゲットにした複数のテーマの研究を経験することができたため、天体固有の降着現象だけではなく、多くの天体に共通する降着現象に気づくことができた。このような共通の降着現象の解明は、私の研究課題で常に目標としていることである。また、今まで私の研究の基礎としていた時系列解析だけではなく、多波長光度曲線のタイムラグ解析、可視光スペクトルデータの解析、多波長分光スペクトル解析を経験することができ、手持ちの解析手法の幅が広がった。特に、タイムラグ解析については、統計学者の共同研究者の協力によって、天文学の分野では新しい手法(状態空間モデル+ベイズ推定)を使うことができ、その成果を元にした次の共同研究が進行している。また、特殊なアウトバーストを示す矮新星の爆発メカニズムを調べる中で、今まであまり注目していなかった、重い伴星を持つ矮新星と他の激変星の関わりについての新しいアイデアが生まれ、観測提案書を書くなど、今後の研究に繋がる成果も得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の研究では、観測データの解析を主に行い、既存の理論だけでは説明できない現象を解釈に力を注いできた。そのため、平成30年度は、アウトバーストを再現する数値計算コードを組み、平成29年度に考えてきたことを計算に取り入れ、解釈してきた物理現象(質量比が小さい天体で伴星の潮汐効果が及ぼす影響、変則的なX線照射を作り出す円盤構造の影響)をより深く検証し理解すること、従来の計画にあるIW And型のアウトバーストの再現に努める計画である。現在滞在しているダラム大学の指導教員からの勧めもあり、フランスのStrasbourgの天文観測所にある理論グループとの共同研究がスタートするかもしれない。また、海外挑戦プログラムの派遣期間が7月に終わるため、派遣先のダラム大学での研究成果を論文にまとめ、発表する所存である。観測データの解析は平成29年度ほど積極的に行えないかもしれないが、京都大学の屋上望遠鏡で注目している天体のモニタリング観測を行い、私たちの研究グループが指揮しているVSNET teamでの国際協力観測を利用して、平成29年度中の研究で得たアイデアを実現する観測キャンペーンを組む予定である。観測計画書を書いたテーマについてより深く掘り下げるために、連星進化の数値計算について、京都大学の理論グループと一緒に共同研究を進めることも考えている。統計学者の共同研究者と一緒に進めている研究(状態空間モデル+階層ベイス推定を利用した、巨大ブラックホールを持つクェーサーの時系列解析)についても、今年度中に解析結果を出し、論文にまとめ始めることを計画している。
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