2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J08858
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
奥野 尭也 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | フェリ磁性体 / スピントランスファトルク / 磁壁ダイナミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
フェリ磁性体は、反強磁性的に交換結合した副格子を有するため、正味の角運動量がゼロとなる角運動量補償温度(TA)を持つことが知られている。 最近、TAにおける反強磁性スピンダイナミクスに起因して、フェリ磁性体の磁場駆動磁壁速度がTAで極大になるという報告がなされた。そこで、1年目の研究は、フェリ磁性体のTA近傍において磁壁に対するスピントランスファトルク(STT)効果を解明することを目的とした。STTは伝導電子と局在電子間の角運動量移行に起因するトルクであるため、TA近傍において特徴的な温度依存性が期待される。 本研究では、垂直磁気異方性を有するフェリ磁性金属GdFeCoの薄膜を用いた。この薄膜を、ホールクロスを有する細線に加工し、正(+J)および負(-J)のバイアス電流印加下で、磁場駆動磁壁速度を様々な温度において測定した。その結果、磁壁移動に対するSTT効果はTAの近傍で符号反転することが分かった。STT効果の温度依存性を理論的に説明するために、ランダウ-リフシッツ-ギルバート方程式に基づいて、磁場およびSTTによって駆動される磁壁速度式を導出した。その結果、TAに関してSTTの断熱成分が反対称、非断熱成分が対称な温度依存性を示すことが示唆された。本理論式が実験結果とよく合致していることから、TAの近傍におけるSTTの断熱成分と非断熱成分の寄与が実験的および理論的に明らかとなった。 本研究の意義は、フェリ磁性体における電流誘起スピンダイナミクスを解明した点にある。先行研究がTAにおける磁場誘起スピンダイナミクスを解明したことと同様に、本研究はフェリ磁性体に関する重要な学術的知見を与えるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究において、フェリ磁性体磁壁におけるSTTの発現機構を実験的および理論的に解明した。これは、フェリ磁性体磁壁におけるSTT駆動磁壁移動研究の指針となる重要な知見である。特に、フェリ磁性体は、磁化補償温度TMおよび角運動量補償温度TAという特徴的な温度を有し、これらの温度における磁壁移動が実用上有意義であることが期待される。本研究で得られた理論式は、補償温度におけるSTT駆動磁壁移動の振る舞いを予測するのに有用であり、次年度の研究を遂行するための指針となる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終目標は、フェリ磁性体における磁壁メモリとしての動作を実証することにある。1年目の研究では、磁場駆動磁壁移動においてSTTによる磁壁移動の促進・抑制を観測した。そこで次年度では、STTのみでの磁壁駆動を観測することを目標とする。具体的には、TMを含む温度領域においてSTT駆動磁壁移動を観測することで、TM近傍で閾電流密度が低減されるかどうかを検証する。
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