2017 Fiscal Year Annual Research Report
Development of prediction model of salt damage on historical brick masonry
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17J08888
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
水谷 悦子 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 塩類風化 / 水分拡散係数 / 組積造 / 非破壊測定 / 大気降下物 / ガンマ線含水率計 / ハギア・ソフィア大聖堂 / X線回折 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は塩類風化の被害をうける歴史的組積造建築物の保存のため、外部環境から供給される塩類が劣化に及ぼす影響の解明、および劣化現象を予測するための数値解析モデルの開発を目的としている。当該年度においては、大きく分けて現地調査とモデル化のための実験室実験による検討を行っており、それぞれ以下に説明するような成果を得ている。 歴史的煉瓦造建築物であるハギア・ソフィア大聖堂の壁体内塩と大気降下物の現地調査結果から、塩の供給蓄積に関する考察を行い、大聖堂の材料中に含まれる成分の大半は主な析出塩である硫酸ナトリウム塩および硝酸ナトリウム塩の組成が一致した。また海塩由来だけでなく大気汚染物質が塩供給源となる可能性を示した。また、国内の歴史的煉瓦建築物である半田赤レンガ建物における屋内環境調査と塩類風化の年間挙動調査を行い、その熱水分解析から、地下水による壁体内部の含水率が上昇し、表面での蒸発による塩の濃縮と温度低下に伴う溶解度低下が塩析出を生じさせているという可能性が高いことを示した。 塩溶液の移動特性の把握のため煉瓦を用いた塩溶液の吸水・蒸発実験を行い、ガンマ線含水率測定装置を用いた非破壊塩水分布の測定と、SPring-8にて放射光によるX線回折から非破壊の析出塩分布測定を行った。前者では吸水実験と塩溶液の移動に関する数値解析により、塩の濃度と種類が塩溶液の移動拡散係数に与える影響を明らかにし、後者では内部の塩析出状況を確認し、析出量定量化の検討を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
大気降下物の材料への蓄積を明らかにするためハギア・ソフィア大聖堂の敷地内において曝露試験を実施しているが、政情不安の影響を受け試験体の回収が遅れているため、国内沿岸地域での曝露試験体の設置により代替的な検討を行った。一部計画の変更はあったが、現在までの調査によって外部供給塩と蓄積塩の関係把握および環境物理量の取得が概ね完了した。 また材料内での塩析出に伴う水分移動特性の変化は大きく、結晶生成の影響を含めた検討にはガンマ線含水率計に代わる新たな非破壊測定手法の利用が必要になった。SPring-8のX線CTにより煉瓦内の空隙構造を同定可能であることを確認しており、次年度ではこの手法を用いて検討を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
溶液の移動特性に大きく影響する材料内での塩析出性状を把握し、それを数値解析モデルに適切に考慮することが現状の課題である。 そのため煉瓦内の空隙、塩溶液、塩の結晶の空間分布の経時変化をSPring-8のX線CTにより定量的に明らかにする。その上で塩の析出による空隙構造の変化が水分伝導率に与える影響を考慮した熱・水分・塩同時移動溶解・析出連成解析モデルの開発を進める。さらに、これまでに取得した大気降下物量、環境物理量を境界条件として数値解析を行い建物周辺環境が塩析出に伴う劣化に与える影響を検討する。
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