2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J08941
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中川 裕治 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 2次元物質 / 超伝導 / イオントロニクス / イオンゲート法 / トンネル分光 / 層状物質 / BCS-BECクロスオーバー |
Outline of Annual Research Achievements |
グラフェンに代表される2次元物質について、基礎科学・応用の両面から幅広く研究が行われ続けている。本研究では、2次元物質における超伝導に注目し、「イオントロニクス」の技術を駆使して、各種2次元物質における新奇超伝導の探索・制御・機構解明を行うことを目的としている。 イオンを含む電解液やデバイスの駆動方法を最適化することで、「トランジスタ構造における電界効果では到達できず、化学ドープでは通り過ぎてしまう」キャリア数領域を、イオントロニクスによって実現できることを明らかにした。層状窒化物(塩化窒化ジルコニウムZrNCl, 塩化窒化ハフニウムHfNCl)に対してこの手法を適用することで、この物質群が低ドープほど高い転移温度を示すという特異な性質を広く有することを明らかにした。特にZrNClにおいては、これまで当物質で報告されているあらゆる超伝導転移温度の中でも最も高い転移温度を実現し、なおも半導体である母物質相に向かって転移温度は上昇し続けている。他の超伝導体では見られない特異な性質である。 上記のような低ドープかつ高い転移温度を示す系においては、従来のBCS超伝導領域を離れ、Bose-Einstein凝縮(BEC)によって記述される超伝導に近づいていくと期待される。イオントロニクス技術とトンネル分光法を組み合わせることで、そのようなBCS-BECクロスオーバー領域に期待される「擬ギャップ相」の観測に成功した。転移温度とフェルミ温度との比は0.1となり、これも2次元系におけるBCS-BECクロスオーバーが実現していることを示唆している。これまで冷却原子系で実現されてきた現象に、固体という凝縮系からアプローチすることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度はイオントロニクスデバイスの動作を追究することで、層状窒化物においてこれまでにない低ドープ領域を実現することを目的とした。実際に塩化窒化ジルコニウムZrNClにおいて、1%を切る低ドープ領域での超伝導を観測した。そしてそのような領域でも、ドープ量を減らすことで転移温度が上昇し続けるということが明らかになった。ZrNClでは様々な手法で超伝導が報告されているが、本研究において到達した低ドープ領域での転移温度が最も高く、本物質系における超伝導相図の特異性がさらに顕著になった。低いドープ量と高い転移温度の両方を実現する非常に稀有な物質の1つであるということが判明し、BCS超伝導からBose-Einstein凝縮(BEC)で記述される超伝導への遷移という、超伝導現象一般における研究課題に取り組む機会を得た。イオントロニクスにおいては困難であったトンネル分光測定にも取り組み、BCS-BECクロスオーバーの兆候を捉えることにも成功している。以上のように本研究は、当初の計画以上に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
イオンゲート法によって実現される層状窒化物の低ドープ領域は、なおも金属的な挙動を示している。さらなる低ドープ領域において、さらに高い転移温度が期待される。高ドープ領域の転移温度が20 Kと高い塩化窒化ハフニウムHfNClを中心に、低ドープ領域を追究し、超伝導転移温度のピークを観測することを目指す。 さらに、液体の電解質を用いたイオントロニクスだけでなく、固体電解質を用いたイオントロニクスにも取り組む。固体電解質は、バッテリー応用の観点で近年注目されているものである。これまでは固液界面における不必要な反応が安定な測定を妨げてきたが、それを排除することができると期待される。さらに、清浄な表面を保つことで、走査トンネル顕微鏡や角度分解光電子分光を用いた研究が可能になると考えている。BCS-BECクロスオーバーの観点からも注目される層状窒化物超伝導体を、より多角的に研究することを目指す。 上記に加えて、層状窒化物系でこれまで報告されていない、単層や2,3層における超伝導も追究する。また、同じく層状窒化物であるが面内の結晶構造が異なる塩化窒化チタニウムTiNClにおける超伝導の研究も行う。層数や結晶構造と転移温度の関係を調べることで、未だに結論が得られていない本物質の超伝導転移温度上昇機構の研究に決着をつける。
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