2017 Fiscal Year Annual Research Report
Eph受容体シグナル破綻によるグリオブラストーマ悪性化の分子機構の解明
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17J08982
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
濱岡 裕穂 京都大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | チロシンキナーゼ受容体 / EphA2 / グリオブラストーマ / 細胞増殖 |
Outline of Annual Research Achievements |
チロシンキナーゼ受容体ファミリーに属するEph受容体は、そのリガンドであるephrinと結合し、下流へシグナルを流すことで、本来発生過程における胚形成、形態形成において重要な役割を果たしている。Eph受容体・ephrinシグナルが破綻することで、発がん・がんの悪性化が引き起こされることが明らかになっている。Eph受容体の一つであるEphA2は、悪性度の高い脳腫瘍であるグリオブラストーマを含む様々ながんにおいて過剰発現しており、発現量と、がんの悪性度との間に相関関係があることが報告されている。これまでに、EphA2の897番目のセリン (S897) がAkt、RSK、あるいはPKAによりリン酸化されることで、グリオブラストーマを含む様々ながんの悪性化が促進されるということが明らかになっている。しかしながら、EphA2のチロシンキナーゼ活性が、がん細胞においてどのように働いているかはまだあまりわかっていない。 本研究では、EphA2のチロシンキナーゼ活性と、S897リン酸化との関係性に着目し、S897リン酸化が引き起こされるメカニズムについて検証した。今年度の研究では、野生型のEphA2受容体の過剰発現により、ERKの活性化が誘導され、EphA2のS897のリン酸化が引き起こされることで、グリオブラストーマの細胞増殖が促進されるということを見出した。さらに、キナーゼ活性を欠失させたEphA2-K646M変異体の過剰発現においては、ERK活性化、あるいはEphA2のS897リン酸化は誘導されず、グリオブラストーマの細胞増殖の促進も見られなかった。これらのことから、EphA2が過剰発現しているとき、EphA2のチロシンキナーゼ活性を介してERK活性化が誘導され、それによりEphA2のS897リン酸化が促進され、グリオブラストーマの細胞増殖が促進されるということが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
グリオブラストーマは、悪性度の高い脳腫瘍の中で最も発症頻度が高い腫瘍である。外科的手術、放射線療法、化学療法が併用されているが、5年生存率は未だに10%程度であり、より効果的な治療法が必要とされている。Eph受容体の一つであるEphA2は、成人の正常な脳組織ではほとんど発現していないのに対し、グリオブラストーマにおいて過剰発現しており、発現量と、がんの悪性度との間に相関関係があることが報告されている。EphA2は、グリオブラストーマの新たな治療ターゲットとして注目されており、EphA2によるがん悪性化のメカニズムの解析が進められている。これまでに、EphA2の細胞内ドメインに存在する897番目のセリン (S897) がリガンド非依存的にAkt、RSK、PKAによりリン酸化されることにより、がん細胞の運動性、浸潤性が促進され、がんの悪性化に繋がるということが明らかになっている。 これまでの研究から、我々は、増殖因子の刺激により、Raf/MEK/ERK/RSKシグナル経路が活性化され、EphA2の897番目のセリンがリン酸化されることでグリオブラストーマの増殖が促進されること、さらに、EphA2の過剰発現により、EphA2のチロシンキナーゼ活性を介してERK活性化が誘導され、EphA2のS897リン酸化が促進されることで、グリオブラストーマの細胞増殖が促進されるということを明らかにした。29年度の研究では、これまであまりわかっていなかった、EphA2のチロシンキナーゼ活性とS897リン酸化との関係性に注目し、EphA2のチロシンキナーゼ活性がS897リン酸化促進的に働くということを見出した。今後の研究では、EphA2の下流でどのような分子が働き、グリオブラストーマの細胞増殖の促進を誘導しているのか、これまで作製したEphA2の変異体などを用いて、明らかにしていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、増殖因子の刺激あるいはEphA2の過剰発現により、グリオブラストーマの細胞増殖が促進されるということ、またEphA2のS897リン酸化に関わるシグナルの制御機構を見出した。 今後は、EphA2のがん化促進機能および分子機構をさらに明らかにするため、EphA2の下流でどのような分子が働き、グリオブラストーマの細胞増殖を促進するのか調べる。まず、EphA2と結合可能な分子の探索を行う。具体的には、C末端にFlagタグを付加したEphA2を作製し、EphA2と結合するタンパク質を、タグ抗体を用いた免疫沈降によって精製した後、質量分析法を用いたプロテオーム解析によって網羅的にその結合タンパク質を同定し、結合タンパク質の解析を進めていく。同定した分子については、増殖促進への関連性を調べ、その結合の制御機構を明らかにしていく。具体的には、そのタンパク質をRNA干渉やCRISPR/Cas9によりmRNAレベル、DNAレベルで発現抑制し、グリオブラストーマの増殖がどのように変化するか調べる。結合の制御機構に関しては、EGF刺激やEphA2のSer897のリン酸化との関連を検討する。具体的にはEGF刺激による同定した分子とEphA2との複合体形成の割合の変化やSer897をアラニン に置換したEphA2-S897A変異体とその分子が結合するのかどうかを免疫沈降法により測定する。 さらに、マイクロアレイ法を用いた網羅的な遺伝子の発現解析によりグリオブラストーマの細胞株を用いて、コントロールの細胞、EGF刺激した細胞、EphA2の発現を抑制した状態でのEGF刺激をした細胞の3群間の遺伝子発現を比較する。発現が変化する遺伝子を特定し、特定した遺伝子をコードする分子あるいはその遺伝子によって制御される分子を同定する。その後同様な機能解析とその作用機構の解析を行う。
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