2018 Fiscal Year Annual Research Report
電波観測を用いた超巨大ブラックホール成長率の推定と質量成長史の解明
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17J09016
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Research Institution | National Astronomical Observatory of Japan |
Principal Investigator |
川室 太希 国立天文台, 光赤外研究部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 活動銀河核 / X-ray / submm/mm 波 / ALMA / Chandra / NuSTAR / MAXI |
Outline of Annual Research Achievements |
超巨大ブラックホール (SMBH: Supermassive Black Hole) に質量降着が起こり、光度にして太陽の 10 億倍をも超えて明るく輝いている状態を活動銀河核 (AGN: Active Galactic Nuclei) と呼ぶ。AGN は、母銀河の星形成に影響を与える可能性が示唆されてきており、それに関連した研究を行った。 前年度に引き続いてサブミリ・ミリ波干渉計 ALMA と X 線望遠鏡 Chandra を用いた、AGN からの放射が周縁の星間物質に与える影響について調査した。結果、AGN 由来の X 線によって分子ガスが原子ガスに解離されている現場を見つけた。既存の研究結果である分子ガスと星形成率の正の相関関係を考えると、星形成が抑制される可能性が示唆された。また実際、星形成が活発な場合に見られる多環芳香族炭化水素の輝線が弱いことが報告されており、いま現在確かに星形成があまり行われていないこともわかった。以上の結果は、欧文雑誌 PASJ に掲載許可されている。 本年度は更に、全天 X 線監視装置 MAXI を用いて、高銀緯 (|b|>10 度) における硬 X 線 (4--10 keV) カタログを作成した。MAXI の稼働から 7 年の全データを用いることで、全天 X 線サーベイ装置としては過去最高感度を 4--10 keV で達成し、682 天体もの X 線源を検出することに成功した。その多くは AGN であると思われる。特に硬 X 線 (> 2 keV) は AGN の活動性の良い指標であり、将来的に以上のカタログを星形成の指標のである赤外線のカタログと比較することで、AGN が支配的に星間物質に影響を与えている銀河を効率的に抽出、詳細研究ができる。カタログについては、欧文雑誌 ApJS に掲載許可されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の根幹である AGN からの放射が周辺の星間物質に与える影響について調査してきた。X 線観測により AGN の影響が及ぶ領域を特定し、サブミリ・ミリ波の分子ガス観測によって星間物質の構成要素が変化している可能性を明らかにできた。ただ、AGN がいれば普遍的に以上の影響がおこるのかは未だ不明であり、次年度で他の天体でも同様の研究を行う必要がある。 また研究課題の一つであった全天 X 線監視装置 MAXI を用いた高銀緯 (|b|>10 度) の硬 X 線カタログの作成も行った。結果、既存の MAXI カタログと比較して 1.4 倍にあたる 682 天体もの X 線源を検出することに成功し、その多くは AGN と考えられる。X 線光度は AGN の活動性の良い指標であり、各々の母銀河について星形成の指標である遠赤外線光度を他のカタログから参照することで、AGN と星形成のどちらが活発であるかを各銀河ごとに調べることができる。これをもとに、星形成からの影響を無視でき、AGN からの純粋な影響を調べるのに適切な銀河を効率よく選択し、AGN の星間物質への影響の統計的な議論へ繋げることができる。 以上のように AGN の影響について理解を深めることができた。また、統計的な議論にむけたカタログ作成も完了し、おおむね順調に研究は進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までで、AGN からの X 線放射が星間分子ガスを原子ガスに解離している現場を発見した。また、その影響は非等方的であり、特に空間分解が難しいようなより小さな空間スケールの構造がそれを制御している可能性が示唆された。 以上の星間物質への影響は、1 天体でのみ確認されただけであり、この現象が普遍的なのかは未だわからない。そこで、これまで大量に集められた Chandra と ALMA のデータを精査し、他の天体でも同様の事実があてはまるかを検証する。 また、観測された非等方的な X 線の広がりが SMBH 周りにドーナッツ状に分布した分子・塵トーラスによるものなのかは未だ数値計算的に確かめられていない。そこで、これまでの ALMA のより高い分解能データから支持されている AGN トーラスの流体力学モデルを基礎に、中心からの X 線放射がどのように物理過程を経て我々に見えるかを検証、観測結果と照らし合わせる。 以上に加えて単純化はするが、様々な AGN のトーラス構造を推定し、どのようなパラメータ (例えば、光度、SMBH 質量、そしてその比率) がその幾何学的構造を決定するのか調査する。これまで X 線スペクトルモデルは、密度一様なドーナッツ状の幾何学的構造を仮定していた。しかし近年、密度が非一様なクランプ状のクラウドがいくつも分布するといった描像が示唆されてきている。そこで前年度に共同研究者とともにそのクランピーな構造を仮定した X 線スペクトルモデルは完成させた。これを「すざく」広帯域 X 線スペクトルに当てはめることで、より確からしい結果をもとにトーラスの起源を議論する。
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Research Products
(15 results)