2017 Fiscal Year Annual Research Report
Magnetogenesis and the generation of primordial gravitatoinal waves during cosmic inflation
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17J09103
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤田 智弘 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 宇宙論 / 原始重力波 / インフレーション理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では初期宇宙において起こったと考えられているインフレーションの機構を解き明かすために宇宙磁場と背景重力波という2つの観測量に注目し、それらが生成されたメカニズムの理論を考案・精査することで初期宇宙に対する理解を深めていくことを目的としている。 本年度はインフレーション中に物質場から作られる原始重力波に対する研究を推進した。まず、U(1)ゲージ場がインフレーション中に大きな役割を果たすモデルとしてはAnisotropic inflation modelがよく知られているが、その問題点としてCMB観測との整合性が指摘されてきた。私は共同研究者と、CMB観測と整合させるためにパラメータを調節すると、モデルで使われてきたアトラクター解に安定的に居続けられなくなることをStochastic formalismという手法を用いて示した。その上で、類似のモデルでCMB観測と整合的でありながらも、観測可能な重力波を生成するようなモデルを提唱した。そのモデルにおいては、重力波が統計的異方性、すなわち宇宙の観測する方角に応じて重力波の振幅が変わるという、今まで考えられたことのない特性があることを発見した。 他方、SU(2)ゲージ場がインフレーション中に重力波を生成するモデルに対しても研究を進め、(I)線形摂動の範囲では許される最低エネルギーのインフレーションでも観測可能な重力波が作られ得ること (II)重力波のパリティ非対称性がLiteBIRD衛星で観測できるかの具体的なForecast (III)このモデルで作られる重力波の非ガウス性の計算と観測可能性についての議論、を行った論文を4本執筆した。これまでの研究によりSU(2)ゲージ場のモデルについてはかなりよく分かってきたが、まだ非線形レベルでの研究が残されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は原始重力波についての研究が大きく進んだ。研究計画としては「SU(2)ゲージ場によって作られる重力波の3点相関関数の計算や、具体的な将来実験(例えばLiteBIRD)を仮定したときの観測可能性の検証等を行う」としていたが、これが両方とも達成できたのは良かった。特に3点関数の研究はドイツにいる学生と計算を進めていたので、時差があるなかでSkypeの会議をしたり2度ドイツへ渡航したりもしたが、そのかいあって2本論文を執筆できた。加えて、U(1)ゲージ場についても新しい観測的特徴を持つモデルを提唱できたのも計画以上の進展といえる。 一方で、重力波に関する研究に集中してしまったために、宇宙磁場に対する研究に目に見える成果が出せていないことは課題である。共同研究者との議論は進めている上、新しい研究プロジェクトも立ち上がる機会が幾度かあったが、あまり具体化できていない。日本にはこの分野の専門家が少ないことも障壁となっている。来年度は国内外の研究者と協働することで、宇宙磁場に対する研究を加速させていきたい。 以上の2つの点を合わせて、進捗状況の自己評価を「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は本研究課題のテーマである原始重力波生成と磁場生成をより幅広く研究していくために、夏頃からスイスのジュネーブ大学に滞在して共同研究を進める予定である。 まず重力波研究の2年目は、引き続きU(1)ゲージ・SU(2)ゲージ場による原始重力波研究をつきつめていくと同時に、素粒子標準模型に含まれないような未知の粒子による原始重力波の生成についても調べていく。例えば higher spin particle という未だ検証されていない新しい仮想的粒子が存在した場合のインフレーション中の現象論が近年注目されており、そのような粒子がどのような原始重力波を出すのかは興味深い問題である。また、一般相対性理論によると重力波は質量がないスピン2の粒子とみなせることがよく知られているが、それに質量を与えるMassive Gravityという理論も盛んに研究されている。その理論の下で原始重力波に関してどのような新しい予言が出せ、観測できるのか調べる予定である。 一方で、磁場研究の計画としては、やはりインフレーション終了時に磁場が作られた後、そしてその磁場が宇宙プラズマの下でInverse cascadeをしながらpower-law的に進化し始める前の、中間となる過渡現象に取り組みたい。この過渡現象によって最終的な磁場の強度は何桁も変わってしまう可能性が指摘されているものの、磁場生成の文脈ではこれまで無視されてきたのが現状である。ジュネーブ大学のProf. Durrerはこのような宇宙論的磁場とプラズマ物理が共存するような系に対する研究の経験が豊富であるので、彼女と共同で取り組むことで、過渡現象を上手にモデル化するあるいは直接解いてしまうようなフォーマリズムを確立することを目指す。
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