2017 Fiscal Year Annual Research Report
制御性T細胞が犬の腫瘍局所へ浸潤する機序解明とその制御
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17J09198
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
酒居 幸生 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 制御性T細胞 / 犬 / 腫瘍 / 予後 / 浸潤機構 |
Outline of Annual Research Achievements |
初めに、犬の腫瘍局所へのTreg浸潤と予後との関連を検討した。悪性腫瘍と診断された犬169頭の腫瘍組織(口腔内悪性黒色腫38頭、乳腺癌37頭、皮膚肥満細胞腫36頭、肝細胞癌28頭、膀胱移行上皮癌26頭、肺腺癌16頭、口腔内扁平上皮癌14頭)および健康犬8頭の正常組織(口腔粘膜、乳腺、皮膚、肝臓、膀胱、肺)を用いて、Tregの特異的分子マーカーであるFoxp3の免疫組織化学を実施した。Foxp3陽性のTregは正常組織には全く存在しなかったが、腫瘍組織では多数の浸潤が認められた。腫瘍内Treg数は、正常組織に比べて悪性黒色腫、乳腺癌、移行上皮癌、肺腺癌、扁平上皮癌で有意に増加していた。一方、肥満細胞腫および肝細胞癌では有意差が認められなかった。また犬の悪性黒色腫、乳腺癌、移行上皮癌、肺腺癌、扁平上皮癌の症例では腫瘍内Treg数の増加が腫瘍病態の進行や症例の生存期間短縮と関連していることが明らかになった。そのため、マウスやヒトと同様に犬でも腫瘍内に浸潤したTregが抗腫瘍免疫を抑制している可能性が示された。 続いて、犬の腫瘍局所へのTreg浸潤機構を検討した。移行上皮癌症例11頭および健康犬5頭の膀胱組織からRNAを抽出し、次世代シーケンサーを用いてRNAシーケンシング解析を実施した。また移行上皮癌症例に対してFoxp3の免疫組織化学を実施し、腫瘍内Treg数を測定した。そして、症例をTreg数の中央値で高浸潤群と低浸潤群に分けて、各遺伝子発現を比較した。その結果、移行上皮癌症例においてTreg浸潤の有無で発現に差がある遺伝子は認められなかった。一方、健康犬と移行上皮癌症例を比較すると様々な遺伝子発現が大きく変動していた。これらの遺伝子発現の変化に基づいてパスウェイ解析を実施したところ、癌遺伝子であるHER2の遺伝子パスウェイが顕著に活性化していることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
犬の悪性腫瘍へのTreg浸潤に関する情報が不足していたが、本研究より犬の様々な悪性腫瘍(悪性黒色腫、乳腺癌、移行上皮癌、肺腺癌、扁平上皮癌)にTregが多数浸潤し、予後不良と関連していることが明らかになった。また、これらの研究成果を国際学会で発表後、国際学術誌に投稿した。ただし、犬の悪性腫瘍へのTreg浸潤機構がまだ明らかになっておらず、今後の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
RNAシーケンシング解析の結果、犬の移行上皮癌ではTreg浸潤機構に重要と思われる分子を検出することができなかった。そのため、今後は他の癌種でRNAシーケンシング解析を実施する予定である。一方、健康犬と移行上皮癌症例を比較するとHER2の遺伝子パスウェイが顕著に活性化していることが明らかになった。そこで現在、犬の移行上皮癌におけるHER2の役割およびHER2をターゲットとした治療法の確立を目指した研究も進めている。
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Research Products
(5 results)