2018 Fiscal Year Annual Research Report
開放系における相転移とダイナミクスの調査による量子アニーリングの性能評価
Project/Area Number |
17J09218
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
高田 珠武己 東京工業大学, 理学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 量子アニーリング / ダイナミクス / 相転移 / 散逸 / くりこみ群 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は以下に述べる2つの研究を行った. 1. 2017年度に続いて環境と相互作用した平均場的なスピン系のダイナミクスを計算した.2017年度では,横磁場スパイクHamiltonian(縦磁場と特定の縦磁化でのエネルギー障壁からなるコスト関数および量子ゆらぎである横磁場の和で表される)の量子アニーリングに対し,ボソン環境と相互作用したときのダイナミクスを古典運動方程式から計算し,アニーリング時間の増大に対してアニーリング後の縦磁化が急激に小さくなることで量子アニーリングの成功が見込めなくなることを示した.これに対し2018年度は,微小に量子効果を取り入れた準古典運動方程式を扱った.これは古典運動方程式に量子的揺動散逸関係を満たす時間依存ランダム磁場項を加えたものとなっている.準古典運動方程式を用い,アニーリング後の縦磁化の平均値が急激に変化するアニーリング時間に対して縦磁化の分散が最も大きくなることがわかった.また,分散が温度の増加に対して増えることも確かめられた. 2. フラストレートした梯子型横磁場Ising模型の量子相転移を解析した.この模型の量子アニーリングは1次相転移が原因で系のサイズに関して指数発散する計算時間を持つことが,先行研究の数値対角化で明らかにされた.このような非平均場的な系は孤立系に対しても解析的に未解明な点が多く,1次相転移が起こるメカニズムをより深く理解するとともに,一様な横磁場以外の量子ゆらぎを用いることで1次相転移の回避が可能になるのかを調べることが必要となる.本研究ではその第一歩として,フラストレートした梯子型横磁場Ising模型の相転移を実空間くりこみ群に変分法を組み合わせた方法で解析した.その結果,先行研究の数値対角化の結果と近い相転移点の値と1次相転移を示唆するスケーリング指数の値が得られた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第1の研究では,環境との相互作用下にある量子アニーリングのダイナミクスにおいて物理量の期待値だけでなく量子効果によるゆらぎを準古典的に計算することができた.この準古典的な方法は,環境が量子アニーリングに及ぼす影響の評価という重要で難しい問題を解析する1つの手法となっている.第2の研究では,フラストレートした梯子型横磁場Ising模型という非平均場的な系の1次相転移を解析することができた.この模型の1次相転移は,フラストレーションが大きい極限でマッピングされる1次元量子ダイマー模型が持つ2つのトポロジカルセクター間での転移であることが知られている.このようにトポロジカルな性質を持つ1次相転移は,通常の実空間くりこみ群法で解析することができないが,くりこみの過程において変分状態からなる射影演算子を用いることで解析が可能になることを明らかにした.さらにこの方法により,一様な横磁場以外の量子ゆらぎが量子アニーリングの障害となっている1次相転移を除けるのかを調べる目処が立ちつつある.
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Strategy for Future Research Activity |
まず,フラストレートした梯子型Ising模型に対して,一様な横磁場以外の相互作用(横方向の反強磁性相互作用など)が加わったときの相転移を解析し,1次相転移を回避できるのかを調べる.また,別の模型として2つの平均場的な部分系が相互作用した準平均場的な系の相転移を解析する.先行研究ではこの模型の数値対角化によるエネルギーギャップの計算がなされ,横磁場以外に横方向の反強磁性相互作用を加えることで量子アニーリングの効率が指数的に上がることが示された.本研究では解析的に相図およびギャップの計算を行い,横方向の反強磁性相互作用が相転移の性質や量子アニーリングの効率を変化させるメカニズムを明らかにする.その上で量子ダイナミクスの計算も行い,相転移と量子アニーリングの効率の関連を確かめる.これらの解析の後,以上の模型がボソン環境と相互作用したときの相転移やダイナミクスを計算することを目指す.
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Research Products
(7 results)