2017 Fiscal Year Annual Research Report
Study on the toughening mechanism of double network gels by mechanochemistry
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17J09290
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
松田 昂大 北海道大学, 生命科学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 高分子ゲル / DNゲル / ダブルネットワーク / 破壊 / 強靭化メカニズム / メカノケミストリー / 破断ラジカル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、強靭な「ダブルネットワークゲル(DNゲル)」の強靭化メカニズムの解明である。DNゲルは90%程度の水を含みながらも一種の工業ゴムに匹敵する強靭性を示す、新規でユニークな強靭材料である。しかし、その強靭化の仕組みは未解明であり、これを分子論的に解明することが本研究の最終目標である。そのためには、DNゲルのき裂(傷)の周囲で何が起きているかを知る必要がある。そこで当該年度では主に、き裂周辺で起きる高分子鎖破断という事象を、化学的に評価する手法を開発する研究に取り組んだ。 用いた基盤技術は、高分子鎖が破断した際に生じる化学反応(ラジカル重合反応)である。本技術をDNゲルの破壊挙動の解析に応用し、き裂周辺で高分子破断が生じた部位を蛍光標識化し顕微鏡を用いてミクロスケールで観察することで、き裂周辺の高分子鎖破断の空間的分布の定量的な評価を行った。その結果、高分子鎖の破断量は空間分布が存在し、ゲルの破壊の起きた表面近傍で最大値を示し、深部に行くにつれて破断量が徐々に減っていくことが明らかになった。その分布範囲は一般的なゲルに比べて著しく大きく、強靭なDNゲルに特有な現象であった。さらに、その高分子鎖の破断で消費されたエネルギーの総和は、DNゲルの破壊エネルギー(強靭性の指標)と良い一致が見られた。これらを総括すると、DNゲルの強靭性はき裂周辺の広範囲な高分子鎖破断に支配されていると結論付けられる。 本成果はDNゲルの強靭化の本質をミクロスケールで実験的に示す画期的方法である。今後は、本手法を活用することで、「DNゲルがどのような条件で強靭化するか」の解明に取り組み、一般材料の強靭化指針に波及しうる本質的原理究明に取り組む予定である。なお、本成果(付随する成果を含む)は、該当年度で7件の学会で発表を行った。現在、2報の原著論文の投稿を準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は(1)DNゲルの内部破壊の可視・定量化、および(2)DNゲルの応力分布の可視・定量化、の二つの基礎技術開発の研究を行った。概観として、(1)は期待以上の進展があり、(2)は計画に対して若干の遅れがあり、総合評価として「おおむね順調な進展」との自己評価である。 (1)については「研究実績の概要」でも述べたように、高分子破断を用いたラジカル重合の手法を用いて、期待以上の成果を挙げている。特に、当初の計画では内部破壊部位の詳細な空間分布の取得は容易ではないと想定していたが、実際にはミクロスケールの高分子破断の空間分布を定量的に観察することが出来た。この成果について、既に一本の論文が執筆出来るだけの実験結果取得と考察がなされており、これから当該論文の執筆に取り掛かる。 なお、当該年度中には、本研究課題の根幹となる基礎技術である「DNゲル内部の高分子破断を用いたラジカル重合」に関する論文執筆にも十分な時間配分を行った。本技術は本研究課題のみならず学術界全般において広範な価値や意義があることが明らかとなり、トップジャーナルへの掲載を目指している。このため、論理構築や補足実験データの取得、論文執筆、査読プロセス等で計画以上に時間を要した。現在、再投稿の準備をほぼ完了した状況である。時間的コストは要したが、本技術の価値に気付き論文の内容を磨き上げることが出来たため、当初の期待を大幅に上回るインパクトを世界に与えるものと見込んでいる。 (2)については、新規応力応答分子の合成に取り組んだ。当初想定した化合物の合成に成功したが、DNゲル中で効果的に機能しなかった。これは、当該分子の極性溶媒中の挙動に由来するものであったため、別の候補分子の検討を行った。この検討や合成に時間を要し、計画より若干進捗が遅れている。現在、新規候補分子の合成まで達成しており、今後はこの分子の機能評価を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、上述の(1)「DNゲルの内部破壊の可視・定量化の手法」を様々なDNゲルに適用を拡張し、内部破壊の空間分布パラメータと材料特性(組成や力学諸特性、化学特性など)の系統的な比較検討を行う。これにより、DNゲルの強靭化に重要な要素を整理し、DNゲルの強靭化メカニズムの総合的な理解を目指す。 一方、上述(2)「DNゲルの応力分布の可視・定量化」については、これまでに合成手法を確立した分子の機能評価を行う。特に、DNゲル中で応力応答蛍光分子として機能するかが重要な評価点である。期待通り機能した場合には、本系を用いてDNゲル中の応力と蛍光強度の関係を取得する。この結果を用いて、DNゲルの破壊試験下のき裂先端を共焦点蛍光顕微鏡で観察することで、き裂周辺の応力分布を取得し、DNゲルの破壊試験下における応力場やひずみ場の解析を行う。 初年度の経験から、(1)は上記予定通りに進捗することが推定され、他方(2)は不確実性が高く、予定に対して前倒しまたは後倒しになる可能性も高いことが推察される。(2)が予定以上に順調に進捗した場合には、(1)と(2)の技術や得た成果を統合的に評価し、DNゲルの破壊メカニズムについてさらに深く本質的な理解を目指す。一方、(2)の新規分子開発が著しく困難となった場合には、(1)のみに注力することも検討する。(1)のみであっても、当該研究の目的である「DNゲルの強靭化メカニズムの解明」は大きく前進することが分かったためである。 本年度は、実験検討に加え論文等による成果の公表も行う。執筆中である一報目は執筆終了間近であり、2018年5月にはNature誌に投稿予定である。二報目は執筆のための実験結果と考察がほぼ揃っているため、一報目に引き続き執筆を開始する。その他、論文執筆に足る成果が得られた場合には三報目以降の執筆も行う。必要に応じて適宜国内外の学会でも発表を行う。
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Research Products
(9 results)