2018 Fiscal Year Annual Research Report
家族介護者の心理的負担と家族関係の関連に関する検討:介護体験の「意味」に注目して
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17J09291
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
馬場 絢子 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 家族介護 / 母娘関係 / ケアラー / 高齢社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
親子関係という文脈における介護体験理解は不十分であり,日本での体系的な介護者支援はほぼ存在しない。そこで本研究は,家族発達的視点から長年の親子関係に基づく介護の意味を明らかにし,介護者向け心理援助プログラムを提案することを目的としている。 今年度は実母を介護する娘を対象とし,介護様式の決定プロセスに焦点を当てた質的分析を行った。この結果から得られた,介護の意味づけ及び介護に取り組む姿勢というテーマが浮かび上がってきた。そこでまず介護の意味づけに焦点を当てて行った質的分析の結果を国際学会での発表し国内の査読付き論文誌に投稿し修正再査読となった。さらに介護態度に注目して行なった分析結果についても国際学会での発表を経て洗練し,投稿準備中である。 質的研究の結果から介護者と被介護者との関係性の重要性が示されたため,介護者ー被介護者関係に関する文献レビューを行い論文にまとめた。 また並行してこれらの結果を量的に検証するために,尺度の原案を作成し質問紙調査を実施した。データ収集は現在まで継続中である。 さらに新たな視点として,親が祖父母の介護をしている孫世代の立場から家族介護体験について明らかにすることを目的とした質的研究も実施した。この結果は国内学会での報告を予定している。 このように,今年度は介護者による母娘介護体験モデルを作成し,介護者-被介護者関係や介護者の子(孫世代)にも対象を広げ,家族システムにおける介護の理解へと展開した。これにより,本研究の中心となる知見が得られ,次年度以降につながる量的研究の実施に至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画がそのまま実施されたわけではないものの,当初想定していなかった成果を得ることもでき,計画の微修正は妥当であったと考えられる。 具体的には,質的分析の遅れにより質問紙調査の開始時期が後ろ倒しになったことに加えて分析に必要なサンプルサイズのデータを収集するのに時間がかかり,量的分析を終えることができなかった。しかし,根気よく丁寧な質的分析を行ったことで,当初想定していた「介護の意味づけ」のみならず「介護姿勢」という現象を抽出することができた。これにより,質問紙調査にもこの概念を含めることができた。 また,介護者-被介護者関係に関する文献レビューを行ったこと,孫世代の視点に注目した分析を行ったことも,外的妥当性が高く厚みのある研究を行う上で重要な展開であったと考える。 以上により,本申請課題はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はこれまでに質的研究で得られた母娘介護に関する知見について量的に検証する予定である。まず介護の意味づけ・介護態度について定量的に把握する尺度項目を作成し,これを用いて親子関係における心理的自立・介護の意味づけ・介護姿勢・介護者のパーソナリティ・介護評価・心理的well-being等の関連について明らかにする。さらに,これらの変数や変数間の関連については介護ダイアドによる差異も確認する。この研究結果については学会での報告及び査読付き論文誌への投稿を見据えている。なおここまでの研究全体は博士論文としてまとめる予定である。 これらを踏まえて,介護者向け心理援助プログラムの着想を得る。
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