2017 Fiscal Year Annual Research Report
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17J09378
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
窪 孝祥 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 有機半導体 |
Outline of Annual Research Achievements |
有機半導体では,分子が弱い力であるvan der Waals相互作用により凝集しているため,小さな応力により結晶を大きく歪ませることができること,また分子が動的に大きく揺らいでいるので従来の無機半導体を仮定したバンド理論が厳密には適用しないことから,これまで我々は歪みによるキャリア伝導への効果が巨大であることを観測し,分子間振動とそれに伴うキャリア散乱の抑制によると予測したが,その原因は十分には解明されていない. そこで本研究では,様々な分光的手法を用いて巨大な歪み応答の物理的な背景を理解し,最終的には歪み効果を制御することで高性能デバイスや歪みセンサを開発することを目指している. 本年度は第一に,分光的手法を適用するために歪みの新たな導入手法の開発に取り組んだ.これまでは,プラスチック基板上に結晶を作成し,これを曲げた状態で生じる歪みを利用していたが,ラマン分光法やX線回折法を行うためには平面状の基板で歪みを実現することが最適である.曲げた状態の基板に結晶を作成する手法や引っ張った状態の基板に結晶を作成する手法を検討し,歪みが導入されうることを確認した.第二に,低周波ラマン分光を行い,歪みを導入するための単結晶薄膜で分子間のフォノンモード由来の尖鋭なピークが得られた.また,曲げ歪みを加えた結晶で低周波の一部モードのピークシフトを観測した.以上の結果より,平面歪みを加えた結晶へのラマン分光で分子間振動への影響を精密に測定できると考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の目標は,曲げ歪みを導入した結晶でのラマン分光を予定していた.その結果,一部振動モードのシフトについては観測できた.より多くの振動モードへの影響を精確に測定するため,平面歪みの導入に向けて有用な手法の検討も行うことができたため,研究はおおむね順調に推移していると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,平面歪みを加えた結晶でのラマン分光を行い,歪みによる巨大なキャリア伝導変化と各分子振動モードの変化との相関を明らかにする.その際,分子振動は温度に対しても変化するため,既に得られているキャリア伝導の温度依存性と新たに得るラマン分光の温度依存性を比較することで,温度と歪みによる分子振動を通じたキャリア伝導の制御について包括的な議論を試みる.
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