2017 Fiscal Year Annual Research Report
動物の動脈硬化における免疫グロブリンと脂質代謝関連分子の役割について
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17J09424
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
潮 奈々子 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 免疫グロブリン / 粥状硬化 / アポリポ蛋白 / アミロイド |
Outline of Annual Research Achievements |
高齢犬の冠動脈にはヒトに多い粥状動脈硬化は稀であるが、約30%のイヌに、硝子様物質沈着による硬化病変が生じることが知られており、突然死や弁膜症の原因となることが示されている。硝子様動脈硬化の中でも、アミロイド沈着により硬化した動脈では、内腔の著しい狭小化が生じることから、その病的意義の評価や病理発生機序の解明が必要と考える。これまでの研究により、アミロイド沈着による硝子様硬化が冠動脈以外にも、卵巣、精巣で観察され、同部に免疫グロブリンの軽鎖、および免疫グロブリンMが沈着することが免疫組織学的に明らかになった。さらに同部にコレステリンの沈着が散見されることから、アミロイド沈着による硝子様動脈硬化と粥状硬化との関連性を検討する。 平成29年度はスウェーデンのルンド大学へ短期研修を実施し、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織から蛋白質を抽出する手法を取得した。同手法により得た抽出物をウェスタンブロット法およびHPLC-MS/MS法により解析した。さらにHPLC-MS/MSで得られたアミロイドの候補蛋白質に絞って、イメージングマススペクトロメトリー(IMG-MS/MS)を行い、アミロイド沈着部位との局在を検討した。現在、これらの結果を得て、ウェスタンブロット法によるさらなる解析を進めている。また、卵巣と精巣の動脈壁には脂肪の沈着が散見されることから、脂肪沈着による動脈変性とアミロイド沈着による硝子様動脈硬化に共通する沈着物質を免疫組織学的に検討した。この結果については現在論文執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度はスウェーデンのルンド大学に短期研修を行い、FFPE組織から蛋白質を抽出する手法を獲得した。本手法を用いて、冠動脈に沈着したアミロイド、精巣や卵巣の動脈に沈着したアミロイド、また、比較対象のため免疫グロブリンλアミロイドおよび、粥状硬化を呈した動脈組織から蛋白質を抽出した。さらに、抽出物をHPLCにより分離し、Data Dependent Acquisition(DDA)を用いてMS/MS解析を行った。DDAを用いることで、特にプレカーサーのイオン強度が高いものから選択的、かつ詳細にMS/MS解析することが可能となる。DDAを用いたHPLC-MS/MS解析により、心臓や精巣、卵巣のアミロイドに共通してアポリポタンパク(apo)A1が検出されることが明らかになった。さらに、MALDI-TOFMS/MSによるIMG-MS/MS解析を行い、組織切片上の二次元データを含むマススペクトルを得た。しかし、精巣の血管沈着部位に限局したapoA1のプロダクトイオンは検出されなかった。これは、TOFMS/MSではイオン化の方法がマトリックスレーザー支援イオン化(MALDI)であるのに対し、HPLC-MS/MSではエレクトロンレーザーイオン化(ESI)であるため、プロダクトイオンの保持時間が異なることが原因の一つとして考えられた。 さらに上記の結果から、精巣、卵巣のアミロイド沈着による硝子様動脈硬化および脂肪沈着による動脈変性に共通して沈着するアポリポ蛋白を、apoA1以外にも自作抗体を用いて免疫組織学的に検討した。この結果については、現在論文執筆中である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の研究結果からアミロイド沈着部位と脂質沈着部位に共通して、種々のアポリポ蛋白が沈着することが明らかになった。これらアポリポ蛋白や種々の免疫グロブリンのうち、アミロイド構成蛋白質になりうる蛋白をアミロイドに特異的な水抽出法で検討する。さらに、特に、LDLに関連するアポ蛋白や受容体の沈着がアミロイド沈着部位に限局して観察されることから、LDLに関連して免疫グロブリンがなぜ沈着するかを検討する。特に、近年注目されている、酸化LDLに対する免疫グロブリンがイヌに存在するかを症例のイヌ、高脂血症のイヌ、および正常コントロールのイヌの血清中に存在するか、ELISAを作成して検討する。
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