2017 Fiscal Year Annual Research Report
記憶・学習などの脳高次機能を制御する新規シグナル伝達経路の網羅的解析
Project/Area Number |
17J09461
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
呉 夢雅 名古屋大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
Keywords | Rho-kinase / GEF-H1 / SynGAP1 / リン酸化 / 記憶 / 学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
発生後期において、神経細胞は樹状突起スパインを新生し、その形態・サイズを増大させることでシナプス伝達効率を向上させ、記憶・学習などの脳高次機能を形成している。しかしながら、どのような細胞内シグナルによってシナプス可塑性が制御され、記憶・学習が形成されるのか、その理解は限定的なものであった。我々は独自に開発したリン酸化プロテオミクス技術を用いて、興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸で誘導される細胞内シグナルの網羅的探索を行った。その結果、グルタミン酸経路の下流で活性化されるCaMKIIの新規基質候補としてRhoAの特異的活性化因子GEF-H1を同定した。脳組織培養スライスに高カルシウム刺激やMNDA刺激を行ったところ、GEF-H1のリン酸化が亢進した。ヌクレオチドフリー変異体RhoA(RhoA-G17A)を用いたプルダウン法を行った結果、CaMKIIによるGEF-H1のリン酸化依存的にRho-G17AとGEF-H1の結合量が増加した。したがって、CaMKIIによるGEF-H1のリン酸化によって、GEF-H1のGEF活性が増強し、RhoA/Rho-kinase経路が活性化されることが示唆された。一方、我々は、Rho-kinaseの新規基質候補として、低分子量G蛋白質RasのGAP(GTPase活性化蛋白質)であるSynGAP1を同定した。活性化型Rasに強い親和性を持つRaf-RBD(Ras Binding Domain)を用いたプルダウン法を行った結果、Rho-kinaseによるSynGAP1のリン酸化依存的に活性化型Rasの結合量が増加した。したがって、Rho-kinaseによるSynGAP1のリン酸化によって、SynGAP1のGAP活性が減弱することで、Ras/Raf/ERK/ERK経路が活性化されることが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、我々が独自に開発したリン酸化プロテオミクス技術を用いて、グルタミン酸シグナルの下流でリン酸化されるタンパク質の同定を行った。その結果、CaMKIIの新規基質候補として、RhoAの特異的活性化因子であるGEF-H1を、Rho-kinaseの新規基質候補として、低分子量G蛋白質RasのGAP(GTPase活性化蛋白質)であるSynGAP1を同定した。GEF-H1のリン酸化を特異的に認識する抗体を作製し、GEF-H1の細胞内のリン酸化状態を評価した結果、高カルシウム刺激、あるいはMNDA刺激によりGEF-H1のリン酸化が亢進することが判った。ヌクレオチドフリー変異体RhoA(RhoA-G17A)を用いたプルダウン法を行った結果、CaMKIIによるGEF-H1のリン酸化によって、Rho-G17AとGEF-H1の結合量が増加した。したがって、グルタミン酸シグナルの下流で、CaMKIIがGEF-H1をリン酸化することによって、GEF-H1のGEF活性が増強し、RhoA/Rho-kinase経路が活性化されることが示唆された。また、Rho-kinaseによるSynGAP1のリン酸化によって、低分子量Gタンパク質Rasとその下流のERKの活性化が増強するという予備的な結果が得られた。したがって、Rho-kinaseによるSynGAP1のリン酸化によって、SynGAP1のGAP活性が減弱することで、Ras/Raf/ERK/ERK経路が活性化されることが示唆された。 以上の結果より、本年度研究開始時に立てた実施計画と目標はほぼ達成出来たと考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
Rho-KinaseによるSynGAP1の活性化制御機構の解析 Rho-kinaseによるSynGAP1のリン酸化部位を同定するためにIn vitroキナーゼアッセイを行う。細胞内でのリン酸化を評価するためにリン酸化抗体を作製し、高カルシウム刺激、あるいはMNDA刺激の際に、SynGAP1のリン酸化が亢進するかどうか検討する。Rho-KinaseによるSynGAP1のリン酸化によって、SynGAP1の活性が変化するかどうか調べるために、SynGAP1のRho-kinaseによるリン酸化部位の変異体を作製し、In vitro GAP アッセイによりGAP活性を評価する。Rho-kinaseによるSynGAP1のリン酸化によってRasの活性が変化するかどうかを調べるため、Raf-RBDを用いたプルダウン法を行う。Rho-KinaseによるSynGAP1のリン酸化によって、Ras/Raf/ERK/ERK経路が活性化されるかどうかを検討するために、リン酸化ERK抗体を用いて、ERKの活性変化を評価する。 GEF-H1およびSynGAP1とそのリン酸化によるスパイン形態制御の解析 グルタミン酸経路を活性化させた際にGEF-H1やSynGAP1局在が変化するかどうか検討するため、免疫染色によりGEF-H1やSynGAP1の局在を評価する。CaMKⅡによるGEF-H1のリン酸化および、Rho-KinaseによるSynGAP1のリン酸化がスパインの形態変化に及ぼす影響について検討するため、GEF-H1やSynGAP1のリン酸化部位変異体を発現するアデノ随伴ウィルス(AAV)を作製する。これらのAAVをマウス脳の部位に導入し、脳切片を作製して共焦点顕微鏡によりスパイン形態を観察し、詳細な解析(密度・長さ・体積など)を行う。
|
Research Products
(1 results)