2017 Fiscal Year Annual Research Report
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17J09702
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
牙 暁瑞 九州大学, システム情報科学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | スピン波 / マイクロマグネティックス |
Outline of Annual Research Achievements |
L10規則格子構造を有し、強い垂直磁気特性を示すMnGaにおいて、MgO(100)基板を用いスパッタ成膜時に比較的低温でのin-situアニールと500℃程度のポストアニールを行うことで表面荒れを防ぎ、良好な垂直異方性を付与することに成功した。 磁気測定および高周波特性の測定に特殊な装置を必要としない扱いやすい材料であるCo/Ni人工格子膜に着目し、Kerr効果測定によりCo/Ni人工格子薄膜が良好な垂直磁気異方性を有することを確認し、ベクトルネットワークアナライザを用いて10 GHz程度の周波数で強磁性共鳴によるエネルギー吸収が生じることを確認した。 ダンピング定数の小さなFe、CoFe、CoFeBの面内磁化膜において、MgO(100)基板上に成膜した場合にはbcc構造に由来すると推測される4回対称磁気異方性が見られた。この4回対称磁気異方性は静磁表面波モードのONとOFFを可能にし、素子設計の自由度を向上させることができる。これらのサンプルを用いて高周波伝送特性を測定した結果、明瞭なエネルギー吸収が確認された。 従来法のマイクロマグネティックシミュレーションを用いて、垂直磁化膜における高周波電圧印加によるスピン波励起の原理および発振条件を解析した。一方で、原子レベルでの磁化挙動をハイゼンベルグモデルを用いて計算することがより正確な磁化挙動の推定には適切であると考えられるため、原子モデルとマイクロマグネティクスモデルを考慮して、スピン波の励起プロセスおよびスピン波共鳴特性を解析した。その結果、面内に磁気特性が等方的ではない場合に、連続的にスピン波を励起することが可能であることが分かった。さらに特定の条件ではスピンの歳差運動周波数が励起電圧の周波数の半分になる現象が生じることを立証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
該当年度は垂直磁化材料として低磁気損失性に優れたMnGaおよびFePd規則格子膜、CoFeB/MgO多層膜、Co/Ni人工格子膜を、また、面内磁化膜として同じく磁気損失の少ないFe、CoFeB、CoFeの薄膜をスパッタ法により作製し、磁気特性およびストリップ線路を用いた高周波磁気特性の評価を行った。Co/Ni人工格子膜においては最上層にCoを堆積することでCo/Ni人工格子膜とCo薄膜とが交換結合することを実証しており、異種薄膜の複合化によって生じる磁化構造がスピン波伝播特性に与える影響を明らかにするため、実験のみならずコンピュータシミュレーションを併用して着実に研究を進めている。また、従来研究における電流磁界やスピン偏極電流によるスピン波励起方法の問題点を分析し、その克服を図るため電圧印加によるスピン波の励起を提案している。既にコンピュータシミュレーションによる電圧動作機構の解析に着手しており、特定の条件下では励起されるスピン波の周波数が励起電圧の変調周波数の1/2となる非線形現象が生じることや、熱揺動による歳差運動の増大効果によって高効率なスピン波の励起が可能になることなどを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
ベクトルネットワークアナライザを用いたスピン波の0次モードに相当する強磁性共鳴周波数の測定では、現有のDC~40 GHzの周波数範囲ではMnGaの共鳴によるエネルギー吸収が確認できなかった。これは膜厚の不足または異方性磁界があまりに大きく(15 kOe以上)、共鳴周波数が40 GHz以上となっていることが原因として考えられるため、膜厚を200 nm以上に増やすことや熱処理温度の調整により異方性を変化させて同様の実験を実施する予定である。 FePd薄膜の作製では使用した装置で昇温可能な温度領域ではFePdを規則格子化するには不十分であると推測されるため、現在はさらに高温でのアニールによる規則格子化を検討している。 CoFeB/MgO多層膜の作製では垂直異方性は確認できたものの垂直異方性が未だ弱い。CoFeBの垂直異方性はMgOとの界面で生じることが知られており、CoFeBの膜厚が1.2 nm以下で強い垂直異方性が発現することが実験的に示されている。このような膜厚は薄膜作製における初期状態であるため、低ガス圧、低投入電力での低エネルギー下における成膜で基板に到達する原子のマイグレーションを押さえることが良好な垂直異方性の発現に寄与すると考えられる。今後は低エネルギー下での成膜により垂直異方性の向上を試みる。 Fe、CoFe、CoFeBの面内磁化膜に高次のスピン波と推測されるエネルギー吸収も確認されており、高次モードであるスピン波共鳴特性の測定を可能にするための多端子プローバを用いた測定系を構築中である。なお、コンピュータシミュレーションを併用してデータ解析を行っている。
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Research Products
(6 results)