2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J09855
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐藤 圭 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 貝殻微細構造 / バイオミネラリゼーション / 二枚貝類 / 原鰓類 / 中生代 |
Outline of Annual Research Achievements |
軟体動物の貝殻は,炭酸カルシウムと微量な有機物が作るミクロスケールの形態形質,貝殻微細構造で構成されている.貝殻微細構造の種類によって,貝殻の物理的強度・生産コストが大きく異なることがわかっている.報告者は,貝殻の特性を大きく左右させる『貝殻微細構造』の形質進化に注目し,軟体動物における多様性変動イベントに新たな解釈をもたらすことを目指して研究に取り組んでいる. 本年度は,原始的な特徴を残す二枚貝である原鰓類を研究対象として,当該分類群の貝殻微細構造進化の時空間分布を特定することを目標に,化石試料の採集や博物館収蔵標本の調査を実施した.北海道(白亜紀後期),イギリス(白亜紀後期)およびポーランド(ジュラ紀中期)にて原鰓類化石の発掘調査を行ったほか,アメリカの国立自然史博物館とピーボディ博物館にて収蔵化石標本の調査をそれぞれ行い,現地にて微細構造の再記載を行った.一連の調査の結果,現生種で知られている原鰓類の全上科をカバーする化石原鰓類数十種について,SEM観察に基づいた貝殻微細構造組み合わせの記載を完了した.これにより,ジュラ紀以降の化石種について現生種と対応可能な微細構造が観察できることがわかった.さらに,特定の進化系統において中期ジュラ紀~前紀白亜紀の期間に優先する貝殻微細構造が入れ替わっていることが明らかとなった.貝殻微細構造は,進化系統毎に安定した形質とされ,それゆえに化石二枚貝の系統分類に利用されてきたが,本研究結果はこれまでの常識を覆す重要な知見である.さらにこの微細構造進化のタイミングは,ニッチが競合する他分類群が多様化し,原鰓類が深海へ適応放散した時期とよく一致しており,ミクロな形質進化が非競争的環境への進出に寄与していたことを強く示唆する,進化古生物学的に意義深い成果であるといえる.一連の研究成果の一部については,現在国際誌に投稿準備中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
貝殻微細構造の進化史の解明という研究課題においては,微細構造を残すような保存の良い化石の産出地が世界的にも限られているという大きな制約があるが,本年度の研究ではもともと予定していた調査地に加え,ポーランドのジュラ系の化石産地での調査が行うことができた.これにより,化石原鰓類における微細構造データの大きなギャップを埋め,微細構造の進化史をより高精細に復元することができた. また,次年度以降予定している分子生物学実験では,一年間を通じて現生真珠貝を数回サンプリングする必要があるが,本年度は本格的に分子実験を開始する前に予察的な調査を数回行ったため,次年度の夏季頃に実験を開始する体制を整えることができた.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では,引き続き地質調査を行うことで化石原鰓類の微細構造データの拡充を継続するとともに,微細構造進化イベントを分子生物学的に解釈することを目指す.例えば現生の真珠貝の中で,アコヤガイは低温環境時に真珠構造がうまく作れなくなることが報告されている.このような微細構造形質の可塑性は,中生代の原鰓類で見られた微細構造進化イベントを解釈する一つのヒントとなりうる.次年度の研究では,アコヤガイをモデル生物とし,貝殻形成に関与する各種タンパク質の分泌量が,異なる微細構造が作り分けられる際どのように変化するか,養殖アコヤガイを季節毎に定期的にサンプリングし,RNA発現量の変化を定量PCRによって明らかにしてゆく予定である.
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Research Products
(4 results)