2017 Fiscal Year Annual Research Report
被覆型分子ワイヤを用いたナノサイズの化学物質センサーの開発
Project/Area Number |
17J09894
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
細見 拓郎 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | ロタキサン / シクロデキストリン / メタロポリマー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の核となるセンサー分子の開発にあたって、固体物性制御の困難さと化学的不安定性を克服するべく、「被覆」戦略を用いた機能性分子開発を行った。重要となるのが被覆構造の種類および構築手法であり、これまでの合成手法では被覆構造内に導入可能な金属錯体・配位子構造が著しく限られていることを明らかとしたうえで、それらの問題の解決に取り組んだ。 第1に、鉄(II)ビス(ターピリジン)錯体構造によって伸長した被覆型π共役メタロポリマーの合成に成功した。この際、あらかじめ目的の配位子部位を金属イオンに配位させた親水性カチオン性錯体を反応に用い、反応後に配位金属を除去するという新戦略を用いたことで、既存のものよりも極めて高い被覆率を有する架橋モノマーを得ることに成功した。この被覆率の改善を反映して、このメタロポリマーは高い分子内電荷移動度を示した。この鉄(II)メタロポリマーは、化学的な酸化還元刺激に応じて主鎖結合の切断・形成の切り替えが可能であり、レドックスセンサーとしてはたらくことが明らかとなった。 また、異なる設計として、π共役鎖中にビピリジン配位部位を有する被覆型配位子ポリマーの合成を行った。この被覆型配位子ポリマーは、様々な典型金属元素に対して配位性を示し、配位金属種に応じた発光色の変化を示した。より価数の高い金属種において、発光波長のより大きな変化幅が観測されており、この違いはLUMO準位の低下幅の違いに起因することが量子化学計算の結果から示唆されている。さらにこれらのポリマーは、非被覆型の参照分子とは異なり、固体中でも高い発光量子効率と溶液中と同等の発光色を示した。さらに、固体状態でも金属イオンに対する応答性を保持していることが明らかとなり、固体ポリマーの成型後の発光色変化という新たなセンシング特性が見出された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題における初年度の計画は、被覆型π共役分子を用いたセンシング分子の開発とそのセンシング特性について調査を行うことであった。本研究においては、超分子的合成技術を駆使して様々な被覆型π共役メタロワイヤを合成することに成功し、それらが(1)酸化還元刺激、および(2)重金属イオンに対してセンシング特性を発現することを見出した。これらの分子は、センシング材料としてのみならず、高い電荷移動度を生かした導電性材料や、反応の可逆性を利用した再生可能材料、あるいは、成型後の発光色変化が可能な固体ポリマー材料としての展開が期待される。さらに、この研究の遂行にあたって開発された完全メチル化シクロデキストリンのフリッピング現象を利用することで、不安定性錯体化学種の速度論的安定化手法への応用にも成功している。この手法によって得られたニッケルビス(ジチオベンゾエート)錯体は、その効率的な合成および溶液中での安定性に対して顕著な環状被覆効果が表れており、その可逆な還元挙動を観測することに世界で初めて成功している。それに加えて、固体表面への接着点としてジチオベンゾエート部位を導入した新規被覆型アンカー分子を設計・合成することにも成功している。本分子の被覆率を適切に制御することで、電極表面に対して効率的な接合可能であることが示され、被覆による分子接合の密度および安定性の向上効果が明らかとなった。この被覆を用いた固体界面への効率的な分子接合は、ナノサイズの分子センサーデバイスの創出という本研究課題における鍵となる要素技術のひとつであり、この部分について重要な知見が得られた意義は大きい。以上のように本研究課題は、被覆型π共役センサー分子に対する新規合成法の開発とその機能性の開拓にとどまらず、錯体化学への応用や固体表面への接合制御にも成功するなど、当初の計画以上の進展をみせている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに開発をすすめたセンサー分子を用いて、分子センサーデバイスの構築を行う。 合成したセンサー分子を固体半導体表面に修飾することでデバイス化し、そのセンシング特性の評価に取り組む。このデバイスに対して、各種標的分子を含む溶液を流通させ, 電流値変化をモニタリングする。 この測定を、センシング分子の構造的・電子的特性を変更して行い、それぞれのセンサーが各標的物質に対してどのように反応するかをマッピングすることで、センサーの選択性を生み出す化学的な要因を特定する。液相中だけでなく、気相中の化合物センシングについても、作成したデバイスに標的化合物を含む窒素ガスを流通させることで同様に行う。 標的化合物としては、種々の疾病のマーカー分子として知られる各種アミン・アルコール・アルデヒドを選択する。 炭素鎖の長さや分岐部位, およびキラリティーが異なる有機化合物について比較することでセンシング分子のまわりの立体環境の効果を確かめる。また、酸素や二酸化炭素、水を含むガスについても測定を行い, 外乱耐性を評価する。以上で得られた結果をフィードバックすることでセンシング部位の再設計と合成を行い, 高い感度・ 選択性・応答性を備えた分子センサーデバイスを実現する。以上の研究遂行にあたっては、ナノレベルにおける固体半導体の形成技術・デバイス作成技術・センサー評価技術が必要となるが、これらに関しては、酸化物ナノワイヤという材料を基軸とすることで、九州大学先導物質化学研究所の柳田剛教授が世界的に先駆けた技術を確立している。そこで申請者は、平成30年度より柳田研究室へと受け入れ先を変更し、本研究課題を加速推進する見込みである。
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Research Products
(2 results)